697 / 2013

第697話(フレイン視点)

 ――オーディン様の屋敷(ヴァラスキャルヴ)で、あんな戦闘をおっぱじめてる方が処罰されそうだけど……。  まあいい。今はアクセルを取り戻すのが最優先だ。  長い階段を上り、フレインはようやく最上階に到達した。  階段の目の前には頑丈な鉄門があり、両脇にカラスの銅像が一羽ずつ置かれていた。  近づいて門を軽く叩いてみたが、かなり頑丈……というか普通の方法では開かないようになっていて、強引に突破することはできないと思われた。  さて、どうやって開けてもらおうか……。 「眷属(エインヘリヤル)が来た」 「眷属(エインヘリヤル)が来た」 「っ……!?」  唐突に、両脇の銅像が喋った。銅像だったはずのカラスたちはバサバサと羽を羽ばたかせ、瞬く間に本物のカラスになってフレインの周囲を飛び回った。 「眷属(エインヘリヤル)が直接訪ねてくるのは珍しい」 「こいつはただの眷属(エインヘリヤル)ではない」 「眷属(エインヘリヤル)にして巫女の息子だ」 「でも巫女の息子は二人いた」 「一人はラグナロクで消えた」 「残された方は何をする?」  飛び回りながらあれこれ言い合うカラスたちを、フレインは冷静に眺めた。  ――なるほど、これが思考(フギン)記憶(ムニン)か。  オーディンの所有物である、二羽のカラス。世界中を飛び回り、オーディンに情報を持ち帰っていると聞いた。この様子だと、フレインが訪ねてくることもとっくに知っていた可能性がある。それでもバルドルが手紙を送ったのは、形だけでも予告しておかないと心象が悪くなるからだろう。 「オーディン様に会いたいんだ。通してくれないかな」 「眷属(エインヘリヤル)がオーディンに会いたいという」 「眷属(エインヘリヤル)はオーディンに頼みがあるという」 「眷属(エインヘリヤル)は失ったもう一人を取り戻したい」 「その願いは、眷属(エインヘリヤル)自身で叶えなければならない」  ひとしきり飛び回り、カラスたちは銅像があった台座に再び停まった。そして片羽根を広げ、扉を差し示した。  頑丈な扉がゆっくりと開いていく。

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