699 / 2013
第699話(フレイン視点)
「儂に願いがあるそうだな。単刀直入に申してみよ」
「私が望むのはただひとつ、弟・アクセルの復活です」
フレインは頭を上げずに言った。この手の相手は、許可なしに顔を上げると叱責が飛んで来る。「面を上げよ」と言われるまでは俯いたままでいるのが正解だ。
それに、最初は感情的に訴えるより切々と事情を説明した方が効果的だろうと思った。
「弟は予言の巫女と共に、石碑を破壊してこの世から消えました。ですが本当なら、石碑を破壊するのは予言の巫女のみだった。弟はただ巻き添えを食っただけでした」
「それがどうした」
「……!?」
「ラグナロクで巻き添えを食って亡くなったものはごまんといる。巨人族のみならず、アースガルズの神も大勢死んだ。我が眷属 も、ラグナロクを通して当初の半分以下に減った。それをいちいち復活させていたら、儂の身がもたんわ」
「……ですがオーディン様」
「世界を救って消えたのなら、貴様の弟も本望であろう」
「…………」
その言い草に、フレインはぐっ……と拳を握り締めた。
何が本望だ。アクセルは自分が消えることなんて微塵も望んでいなかった。成り行きで巫女を道連れにしたものの、本当なら平和になったヴァルハラに一緒に帰るはずだった。
だいたい、石碑が壊れた恩恵を一番受けているのはオーディンだというのに……。
「オーディン様……あなたはずっと死を恐れていたのではありませんか」
フレインは絞り出すように言った。
「石碑には『オーディンはラグナロクの最中、フェンリルに飲み込まれて命を落とす』と書かれていました。あなたはそれを恐れていた。だからこそ我々眷属 を集め、フェンリルをグレイプニルで縛り付ける等して、そうならないために対策してきたのでしょう。その恐怖を、私の弟が解消してくれたのです」
「……ほう」
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