700 / 2013

第700話(フレイン視点)

「オーディン様にとって、いち眷属(エインヘリヤル)の消滅など取るに足らない出来事なのかもしれません。ですが、その消滅によって自分が生き延びられたという事実は、忘れないでいただきたい。何度でも言います。あなたが死の運命から逃れられたのは、弟が石碑を破壊してくれたからです。弟があなたの運命を変えてくれたのです」 「…………」 「……オーディン様、お願いです。弟を返してください。あの子は私の全てです。弟がいない生活なんて、私には考えられない。探してみれば弟の痕跡はあちこちに残っているのに、本人だけが存在していないなんて、そんなこと……」 「…………」 「覚悟はしています。弟を復活させるためなら、私はどんなことでもするつもりです。ですから……どうか弟を……私のアクセルを……」  顔を伏せたまま、必死に訴える。  これでオーディンが動いてくれなかったら次はどうしよう。出直して、今度はバルドルと一緒に訴えようか。もとより諦めるという選択肢はないのだ。何度断られても、アクセルを取り戻さなければならない。  必ず迎えに行くと――約束したのだから。  するとオーディンはやや静かに口を開いた。 「……確かに、儂が生きていられるのは石碑が壊されたおかげだ。お前の弟の働きは認めてやってもよい。復活させるのもやぶさかではない」  それを聞いて、フレインは思わず顔を上げた。オーディンは頬杖をついたまま、右目だけでこちらを見据えていた。 「だが先に言っておく。儂の力を持ってしても、消滅した者の完全復活は困難だ」 「……! それは……」 「身体は蘇るかもしれん。だが中身はお前の期待するものではないかもしれん。それだけ、石碑を破壊した代償は大きいのだ。それでも構わぬか」 「構いません」  フレインははっきり頷いた。

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