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第703話(フレイン視点)
ピピも途中までついてきてくれたが、さすがにノーマスクのピピを死者の国に連れて行くわけにはいかない。
「ピピちゃん、きみはヴァルハラでお留守番していてくれるかな。死者の国に行くのに、マスクなしでは危険すぎるから」
「ぴー……」
「大丈夫、アクセルの欠片を手に入れたらすぐに戻ってくるよ。私も早くアクセルに会いたいし、時間はかけない」
「…………」
「死者の国から戻ってきたら、すぐまたオーディン様のところに行くからね。そしたらやっとアクセルに会えるよ」
そう言ってピピを撫でたら、ピピはすりすりと鼻面をすり寄せてきた。
「アクセル、あいたい」
「うん、私も早く会いたい。再会したらいっぱい楽しいことしようね」
「ぴー」
うん、とピピが頷いたのを見届け、フレインは世界樹 を通って死者の国に向かった。死者の国に着く直前にマスクで口元を覆い、頭の後ろでしっかり固定する。ノーマスクに比べて随分息苦しく感じたが、これをしていないと自由に歩き回れない。
なるべく早く欠片を見つけないと……と思いつつ、死者の国に到着した。到着した途端、地上とは少し違う空気に一瞬くらりとめまいがした。これが死者の国特有の瘴気の力か。
――マスクは用意したけど、三十分ももたないかも……。
もたもたしている時間はない。一刻も早く最深部に行って、アクセルの欠片を取って来なくては。
「あら、あんたまた来たの?」
幸か不幸か、出入口付近に女王 がいた。ロキの娘で、左半分が腐っているが、アクセルに言われてから服を身に着けるようにしたらしい。サリーのように身体に巻きつけるタイプの衣装だが、上手い具合に左半分が隠れていてなかなか似合っていた。
女王 はやや呆れながら、言った。
「よく来るわねぇ。今度は何をやらかしたの?」
「アクセルの欠片を探しに来たんです」
「アクセル? それって……」
「私の弟です。覚えておいでですか?」
「そう……そうね、確かにそんな人がいたわ」
衣装の端をちょっと摘まみ、懐かしそうに言う。
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