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第705話(フレイン視点)

「私、アクセルに新しい服を仕立ててもらいたいの。どんな服が似合うかなって、いっぱい悩ませてやるわ。その姿を想像するだけで……ふふ、楽しくなってくるわね」  理由はともかく、彼女もアクセルの復活を望んでいることはわかった。死者の女王までもが協力してくれるとは思っていなかったので、意外だった。 「じゃあ、パパッと行ってくるから、ちゃんとここで待機していること。あちこち歩き回るんじゃないわよ?」 「承知しました」  フレインは素直に頷き、立ち去って行く女王(ヘル)を見送った。  ――すごいな……。アクセルのために、みんな協力してくれている。  ピピやミューはもちろん、バルドルもオーディンも、女王(ヘル)もだ。皆、それぞれの方法で手を貸してくれて、復活を待ち望んでいる。妨害してくる人はほとんどいない。これも弟の人望なのだろう。誇らしくもあり、ちょっと羨ましくもある。  ――しかし、彼女は何分で戻ってくるだろう……。  以前、アクセルと一緒に死者の国に落ちた時より、瘴気がかなり濃くなっている。出入口付近は地上とあまり変わらない空気だったのに、マスクをしていても気分が悪くなるほどだ。  待機していろと言われたが、三十分以上かかるなら一度地上に戻らないとこちらの身がもたないぞ……? 「っ……」  早くもめまいがひどくなってきた。足元がふらつき、頭もくらくらしてきて、直立しているのが辛くなってくる。フレインは枯れた木に寄りかかり、ずるずるとその場に腰を下ろした。ああ、本当に気持ち悪い。呼吸するのも辛い。  ――生身の状態で死者の国に来るのは、これで三回目だからな……。  生きたまま死者の国へ訪問を繰り返すと、だんだん瘴気の効果が強くなってくるのだ。こんな状態じゃ、とてもじゃないが最深部には行けない。 「ふ……ふー……ぐっ」  気合いを掻き集め、強引に狂戦士モードになってみる。身体へのダメージがなくなるわけではないが、苦痛を感じないだけマシだ。  アクセルを復活させるまで、自分は倒れるわけにはいかないのだから。

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