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第706話(フレイン視点)
よろよろとその場から立ち上がり、頭を振る。くらくらして不安定なのは変わらないが、気持ち悪さは感じなくなった。
女王 が帰ってくるまで気を失わないよう、大木の周りをゆっくり歩いてみた。一周一分のペースで歩いていたら、十周くらいしたところで女王 が戻ってきた。
「何とか見つけたわよ。ほら、これ」
彼女が薬瓶のような透明な入れ物を差し出してくる。その中に、ほんのりと赤く光る物質が入っていた。夕焼けのように優しい色で、ずっと見ていても飽きない。何となくアクセルを彷彿とさせる。
女王 は自分で肩を揉みながら、言った。
「あーホント、最深部は空気が悪いわね。瘴気が濃すぎて前もロクに見えないし。ヤドリギがなかったら、私も迷ってたわよ」
「ありがとうございます……。本当に助かりました……」
「いいわ。その代わり、アクセルが復活したらたっぷりお礼してもらうから。新しい服を最低三着は仕立ててもらって、化粧品も選んでもらうの」
……お礼の品が増えている気がするが、そこはツッコまないことにした。
女王 が腰に手を当てて、言う。
「ほら、それ持ってさっさと帰りなさい。あんた、顔色悪すぎよ。ここで倒れても、私はこれ以上助けてあげられないからね」
「はい……ありがとうございました」
頭を下げた途端、ぐらりと大きく目が回って倒れそうになった。
それをどうにか堪え、フレインは出口を通ってヴァルハラを目指した。
いつものヴァルハラに戻った途端、新鮮な空気が肺に入ってきた。体内の汚れた空気を洗い流してくれるかのようだった。
フレインは震える手でマスクを外した。そして深呼吸をした。一気に清潔な空気を吸い込んだら再び頭がくらっとして、思わずその場に倒れ込んでしまった。
――ああ……死者の国の瘴気がこんなに強烈だとは思わなかったな……。
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