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第707話(フレイン視点)

 アクセルの欠片を手に入れたのだから、一刻も早くオーディンのところに持って行きたかったのに。せっかく狂戦士(バーサーカー)になったのに、全身に力が入らない……。 「ぴー!」  ピピが鳴きながらこちらに駆け寄ってきた。  おうちで留守番しているかと思いきや、世界樹(ユグドラシル)まで迎えに来てくれたようだ。アクセル同様、よくできた神獣だ。 「ピピちゃん……大丈夫だよ……ちょっと休めば元気になる……ごほっ!」  喋ったら急に咳き込んでしまい、フレインは手で口元を押さえた。喉元にどろりとしたものがせり上がってきて、舌の上に鉄っぽい味を感じた。掌が見馴れた血液で濡れたのを見て、さすがに少し焦った。  ――いや、ちょっと……こんなところで死んでる場合じゃないんだけど……。  棺に入れば全快するけれど、そんなことをしていたら大幅なタイムロスになる。アクセルは今も復活するのを待っているのだ。これ以上時間をかけることはできない。  せめてオーディンに欠片を届けるまで……それまでは、何とか頑張らなければ……。 「おい、どうしたんだ?」  ぜいぜいと荒っぽい呼吸を繰り返していたら、聞き慣れた声が耳に入ってきた。歩き方からしてジークだということがわかった。  彼はフレインを抱き起こしつつ、呆れた顔で言った。 「おいおい、とんでもないことになってるじゃないか。とりあえず棺に入ってこいよ。連れてってやるから」 「いい……そんなこと、してる暇はない……」 「いいって、お前な」 「それより、これを……オーディン様、に……」  震える手で欠片の入った瓶をジークに見せる。血に濡れた手で掴んでいるので、今にも滑り落ちそうだった。  ジークはやんわりと瓶を受け取ると、諭すように言った。 「わかったわかった、これは俺が責任もって届けてやる。だからお前さんはまず棺に入れ。んで、全快して戻ってこい。話はそれからだ」 「…………」

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