711 / 2296

第711話(フレイン視点)

「そうか……それは悪かったね」  フレインはアクセルの棺を担ぎ上げた。いつもの棺よりかなり重かったが、持てないほどではない。これくらいなら一人でも何とかなる。 「みんな、いろいろありがとう。もう迷惑かけないから安心して。……それじゃ」 「えー? お手伝いしたのに、『ありがとう』だけで終わり? お礼のお菓子はー?」  途端、ミューが不満そうに頬を膨らませる。  ユーベルもしたり顔で顎に手を当てた。 「そうですねぇ。わたくしの衣装を汚しておきながら、何事もなかったように振る舞われるのは感心できません。わたくしの衣装は全部絹製の特注ですからね」 「俺も、危うくヴァルキリーに刺されそうになったしな。そんな命懸けの仕事をしてきたのに、『ありがとう』の一言で片づけられるのは……」  ピピちゃんもお礼に特製野菜スープくらい作って欲しいだろ、などとピピに話しかけているジーク。  目を見開いて戸惑っていると、ミューがスキップしながら言った。 「というわけで、今からフレインのおうちに行っちゃおー! 美味しいお菓子出してもらうー」 「……え? いや、うちにはそんなお菓子は……」 「いいですね。美味しい紅茶も一緒にお願いしますよ」 「いや、だから美味しい紅茶もうちには……」 「まあ細かいことはいいんだよ。つべこべ言わずに行くぞ」  半ば強引に家までついて来られて、フレインはますます困惑した。  ――一体何のつもりだろう……。  自分の寝室に棺を設置した後、仕方なくキッチンで湯を沸かす。  礼をするのはやぶさかではないけれど、これ以上自分に関わらないで欲しい。これは自分とアクセルの問題だ。これ以上他人に迷惑をかけたくないし、誰かに助けてもらうわけにもいかない。 「あなたの家、かなり広くなった割に殺風景ですよねぇ。わたくしが華麗なレイアートを教えて差し上げましょうか?」  ユーベルが他人様の家をあれこれ批評している。さすがに彼のような貴族のお城にしたいわけではないので、遠慮しておく。

ともだちにシェアしよう!