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第712話(フレイン視点)
次いで、ミューがダイニングテーブルに座りながらお菓子を要求し始めた。
「ねーフレイン、お菓子まだー? お茶淹れる前にちょうだいー」
「……いや、だからうちにはそんなお菓子ないんだよ」
そもそも、アクセルを思い出す前は家にもあまり帰っていなかったので食材もほとんど置いていないのだが。
「しょうがないな、俺が手伝ってやるよ」
と、ジークがキッチンに入ってくる。
「なんか出せそうな菓子はあるか? なければ茶じゃなくて酒にするのもアリだぞ」
「酒って……ここで酒盛りするつもりかい?」
「いいだろ、どうせ今日は他にやることもない。弟くんが復活するまで、気を紛らわせようぜ」
などと言って、勝手にキッチンの棚を漁り始める。
酒もツマミも買った覚えはないが、もしかしたら誰かからの贈呈品が残っているかもしれない。
「というかお前さん、寝室なんかに棺置いといて大丈夫か? もっと目につかない場所に置いといた方がいいんじゃね?」
「どうして?」
「気になって中を確認したくなりそうだからさ」
棺で蘇生中の間は、完全に本人が起きてくるまで蓋を開けるのはNGだそうだ。それをやると中途半端なところで蘇生が止まり、二度と復活できなくなってしまうらしい。
フレインはちょっと苦笑して、言った。
「まあ、その辺は一般的な棺と変わらないから大丈夫だよ。下手に覗いたりしないさ」
「そうか。ならいいが、今のお前さんはちょっと心配だからな」
「心配って何だい? ジークに心配されるようなことはしてないよ」
「それだよ、無理に強がってる感じがして気色悪いぜ」
「気色悪いって……」
さすがにムッとして眉をひそめたら、突然ジークに壁に追い詰められて余計に困惑した。
ジークは壁に手をつきながら、言った。
「お前さん、弟くんを忘れてたことにかなりショック受けてるだろ。あんなに大事にしてたのに、何で全然思い出せなかったのかってずっと後悔してるだろ。だからせめて復活くらいは、自分一人で何とかしようと思ったんだ。違うか?」
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