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第716話

 どのくらい眠っていたかわからない。気付いたら俺は真っ暗な棺の中にいた。 「……?」  重い蓋を押し上げ、棺から起き上がる。  俺は一体何をしていたのだろう。何で棺の中で寝ていたのだろう。全然思い出せない。  ――ここは……。  ぐるりと周りを見回す。  見覚えのない寝室だ。大人用のベッドの横に、自分の棺が置かれている。ベッドは綺麗にメイキングされており、シーツも布団もピシッと伸ばされていた。  明らかに誰かの自宅であることはわかるが、それが誰なのか全く見当がつかない。  仕方なく、俺は立ち上がって家の中を歩き回ることにした。情報を集めれば、少しは何か思い出すかもしれないと思ったのだ。 「……?」  まず、一番生活感が出やすい洗面所に行ってみた。ここで顔を洗ったり歯を磨いたりするので、その人の暮らしぶりがわかりやすいのである。  あちこち探し回り、ようやく洗面所を見つけた。  ここも綺麗に片付けられており、掃除も行き届いている。白い大理石はピカピカだし、鏡にも水アカなどの汚れは一切ついていなかった。この家の主は綺麗好きなのか……。  ――ふたつ……?  お揃いの歯ブラシとカップが、鏡の前にふたつずつ置いてあった。  青い方は使われた痕跡があるが、赤い方は全くの新品である。仮に誰かと同棲しているのだとしたら、どちらも使われていなければおかしい。  何故片方だけしか使われていないのだろう。どうして使われていないものまで一緒に置かれているのだろう。 「……??」  ますますわからなくなってきて、俺は別の場所に行ってみた。  台所にも、主の痕跡がたくさん残っていた。  食器は比較的種類が少なく、スプーンやフォーク等も必要最低限しか置いてなかった。  ただ、ここでも食器が全てペア仕様になっており、更に片方は使い込まれているのにもう片方は新品のままになっていた。  これは一体どういうことだろう。この家の主は一人暮らしなんだろうか。それとも同棲しているのだろうか。  わからない……。

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