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第718話
「お腹空いてるよね。起き抜けだし、あまりガッツリしたメニューじゃない方がいいかな。ミルク粥なんてどうだろう」
「あ、はい……それは何でも……」
「……。じゃあリビングで待っておいで。あ、外にピピちゃんもいるよ? 会いに行ってあげたら?」
「は、はい……」
ピピって誰だ? と思いつつ、言われた通りベランダから外に出てみた。
――うわ……すごい庭だな……。
まるで牧場のような庭である。もちろん牛や馬はいないが、思いっきり乗馬しても問題ないくらい広いスペースが確保されていた。
何故こんな広い庭を持っているのだろう。動物を飼っているわけでもあるまいし……。
「ぴー!」
「……えっ?」
唐突に巨大なうさぎが現れ、猛スピードでこちらに駆け寄ってきた。砲弾のような勢いにおののいている暇もなく、俺は巨大うさぎと衝突して軽々とふっ飛ばされてしまった。
「おわっ!」
空中で体制を立て直し、何とか受け身を取って地面に転がる。
間髪入れず巨大うさぎがその上に乗ってきて、さも嬉しそうに顔を擦り付けてきた。全身で喜びを表現しているらしく、長い耳をパタパタやって丸い尻尾もフリフリ揺らしていた。
「な、何だ? きみがピピちゃんか?」
「ぴー!」
「そ、そうか……。きみ、ここで飼われているんだな。広い庭があってよかったな……」
そう言いつつ、何とかピピをいなす。
ピピはひとしきりはしゃいでいたが、どうも様子がおかしいと思ったのか、俺の上から離れて少し距離をとった。そしてたどたどしく、こう言ってきた。
「アクセル、おかしい?」
「ええと、そう……だな。申し訳ないんだが、実は何も覚えてなくて」
「ぴ……?」
「ここがどこなのか、今まで何をしていたか、何故棺で眠っていたかも全然思い出せないんだ。自分の名前はさっき……金髪の美人に言われて、やっとわかったけど」
「フレインのことも、おぼえてない?」
「ああ……あの金髪の美人はフレインっていうのか。うん……実は全く」
あれこれ世話を焼いてくれるところからして、前からずっと親しくしていたのだろう。
それなのに彼の名前すら覚えていなくて、非常に申し訳ない。
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