719 / 2296

第719話

 俺はピピを撫でながら、聞いてみた。 「ピピちゃんはあの人と俺がどういう関係だったか、知ってるか? ただの友人ではないのは何となくわかるんだが……」 「きょうだい」 「え?」 「アクセルとフレイン、きょうだい。とってもなかよし。らぶらぶ」 「そ、そうだったのか……あの人と俺が兄弟……」  それにしては、顔つきや口調があまり似ていない気がするが……。 「しかし兄弟か……。そんなに仲がよかったなら、なおの事、何も覚えていないのが申し訳ないな……」 「ぴ……」 「共通する思い出もたくさんあっただろうに……何で俺は……」  全く身に覚えがないわけではない。(もや)がかかったように記憶が(かす)んでしまい、ハッキリしたことが何も見えないのだ。「何も覚えていない」というより、「何も思い出せない」と言った方が正しいか。 「う……」  ズキン、と頭に痛みが走って、俺はこめかみを押さえた。  何とか思い出そうと頭の中を探ろうとすると、途端にこうして痛みが走る。一生懸命思い出そうとすればするほど、痛みはひどくなっていく。まるで思い出させないようにしているみたいに、痛みが記憶を邪魔してくる。  これがまた、文字通り「頭痛のタネ」だった。 「ぴー……」  ピピが心配そうに顔を覗き込んでくる。  俺は笑いながら、答えた。 「ああ、大丈夫。ちょっと頭が痛むだけだから。思い出さないようにすれば痛くないし」 「ぴ……」 「それより、普段俺がどうやって過ごしていたか知りたいな。当然、仕事もしていたんだろう?」  そう尋ねたら、フレインがベランダから庭に出てきた。両手にかなり大きな鍋を抱え、ピピの前にドーンと置く。その中には、様々な野菜が丸ごと煮込まれたスープが入っていた。 「はい、ピピちゃんの好きな野菜スープだよ。あと、私たちのミルク粥もできたんだ。天気もいいし、せっかくだからここで一緒に食べよう」 「は、はい……」 「ちょっと待っててね。今お皿とスプーン持ってくるからね」

ともだちにシェアしよう!