721 / 2296

第721話

「……いいよ、わかってる。記憶がハッキリしないんだろう?」  そう言われ、ドキッとして顔を上げた。フレインはやや悲しげに微笑みながら、続けた。 「私のことも覚えていないんだよね? 私がお前の兄だってことも」 「……すみません……」 「いいんだ。お前が悪いわけじゃないし。どちらかといえば、完全な状態で復活させてくれなかったオーディン様のせいじゃないかな」 「ですが……」 「本当に気にしないで。記憶なんてふとした拍子に急に蘇ってくるかもしれないし、かくいう私もお前のことしばらく忘れてたしね」 「え……そうなんですか?」 「そうなんだよ。絶対忘れるわけないと思ってたのに、情けないよねぇ……。そのせいで、お前を蘇らせるのにかなり時間がかかっちゃった。私の方こそごめんね」 「あ、いえ、そんな……フレインさんは俺のために力を尽くしてくれたんですから」  そう思うと、お世話になりっぱなしの自分がますます不甲斐なくなってくる。この人は俺を蘇らせてくれたのに、俺は何故何も覚えていないんだ……。  ――せめて、少しでもこの人の役に立てるように頑張らないとな……。  俺はミルク粥を平らげ、空になった皿とスプーンを持って立ち上がった。  ついでに、ピピが完食した野菜スープの鍋もひょいと持ち上げる。 「食器は俺が片付けます」 「おや、いいのかい?」 「ええ。できることから少しずつやっていかないと」 「そっか。やっぱりお前はアクセルだね。安心したよ」  いい子いい子、と頭を撫でられる。その途端、心の中がふわぁ……っと暖かくなった。幼い頃からこうして何度も彼に撫でられたことがある気がする。気恥ずかしいけれど決して嫌いではない、懐かしい感覚だ。  何か思い出せそうな気がして、俺はフレインに尋ねた。 「……あの、以前の俺もこんな感じだったんですか?」 「うん、そうだよ。真面目で頑張り屋で、兄想いのいい子だった。私にとっても自慢の弟だったよ」 「そう、ですか……」

ともだちにシェアしよう!