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第724話(アクセル~フレイン視点)
「ま、最初から激しい鍛錬しても身体壊すだけだから、まずはピピちゃんと追いかけっこしてきたらどうかな。ピピちゃん、うさぎだから脚速いしね」
「わかりました……そうします」
額の汗を軽く拭い、俺はベランダから庭に出た。
小屋の前で寝そべっていたピピは、待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってきて、こちらにじゃれついてきた。
***
庭に出て行った弟を見送り、フレインは台所に入った。
食材はまだある。夕食には困らない。食器もあらかじめ弟の分は用意してあったから、あと必要なものがあるとすれば衣服だろうか。弟の服はほぼ自分と同じサイズだけど、やっぱりデザインによって似合う・似合わないというのがあるから本人を連れて行って一緒に選びたい。
――まあ、あの子は顔がいいから比較的何でも似合うんだけど……。
ふとユーベルが「弟君は素材がいいのに、ファッションセンスがなさすぎて台無しです」などと漏らしていたことを思い出した。以前は機能性重視の服ばかり着ていたが、せっかく復活したのだし、少しくらいおしゃれさせても悪くないだろう。
かけっこの後に飲む塩入りのはちみつ水を用意しつつ、フレインはいろいろ考えた。
正直なところ、記憶を失っているのは残念でならなかった。オーディンの言う通り、復活したからと言って完全に元通りになるわけではないようだ。
もっとも、人の記憶なんて何がきっかけになるかわからないし――自分も、あの木彫りを見て弟のことを思い出したくらいだから――焦ることはないと思っている。寿命があるわけでもないし、そのうち思い出すだろう……と自分は軽く考えているのだが、どうもアクセルはそうではないようだった。
「このままではフレインさんに申し訳ない」と思っているらしく、早く思い出さなきゃ……と躍起になっている。少なくとも、フレインにはそう見える。
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