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第729話
「あと、その呼び方もね。以前は『兄上』以外で呼ばれたことなかったから、ちょっと調子狂っちゃって」
「え……」
「いや、お前が悪いわけじゃないんだよ? そこは勘違いしないでね。でもほら、盛り上がってる最中に『フレインさん』って呼ばれたら、途中で萎えちゃいそうじゃない? 我に返るというか」
「あの、それだったら今から『兄上』って呼びますので」
「だめだよ。わざとだってわかるもの。形だけ『兄上』呼びに変えても意味はないんだ」
「…………」
アクセルはしゅん……と肩を落とした。
どう説得しても、記憶がないうちはフレインは手を出してくれないみたいだ。それ以外の方法で思い出さないといけないみたいだ。
一番手っ取り早くて確実な方法だと思ったのに……残念である。
するとフレインが軽く肩を叩いてきた。
「そう落ち込まないで。さっきも言った通り、思い出す方法はいくらでもあるんだから。ほら、自分の武器も見つけたしさ。これで鍛錬したり死合いに出ていれば自然と思い出すって。明日は私の死合いも見に来るんだろう?」
「はい……」
「じゃあ庭に戻ろうか。あ、一緒にトレーニングする?」
「……俺なんかがフレインさんに敵いますかね?」
自虐的に呟いたら、フレインはこう答えてきた。
「どうかな。でも以前のお前は、結構いいところまでいってたよ。調子がよければほぼ互角だったかも」
「えっ? 俺、そんなに強かったんですか?」
「強くなったんだよ。私に追いつくために必死で努力してたから。ヴァルハラに来たばかりの頃は滅多斬り状態だったけど、次に本気の練習試合をした時はかなり追い詰められたものだったな」
「そうなんですか……」
どれだけ努力したのか覚えていないが、自分だったら目標のために死に物狂いで努力しそうな気もする。
武器の保管庫から離れつつ、アクセルは聞いた。
「フレインさんと本気で死合えれば、記憶も全部取り戻せますかね?」
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