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第732話

「フレインさん。俺、世界樹(ユグドラシル)まで行ってきます」 「あ、スケジュール確認かい? 私も一緒に行こうか?」 「いえ、大丈夫です。道はわかりましたし、確認して帰ってくるだけですので」 「そうか。じゃあ気をつけて行ってくるんだよ」 「はい」  念のため、小太刀を携帯して家を出る。  フレインの家があるところは、上位ランカーに人気の高級住宅地らしく、大きくて綺麗な家が多かった。特に目立っていたのが城のような巨大邸宅で、あそこは貴族出身の戦士(エインヘリヤル)・ユーベルの屋敷だそうだ。  何となく見覚えがあるような、ないような……。  ――早く思い出さないかな……。  思い出せそうで思い出せない、うっすらと覚えているような気がする……こういうのが一番気持ち悪い。焦ってもしょうがないのはわかっているものの、不快なもどかしさが事あるごとに蓄積していき、気持ちだけが前のめりになってしまう。  フレインの心情もわからんでもないけど、変なところにこだわるくらいならさっさと抱いて欲しかった……などと、つい考えてしまう。  心の中でこっそり溜息をつき、アクセルは掲示板を見に行った。  世界樹(ユグドラシル)の前には様々な掲示板が立っており、一週間の死合いスケジュールはもちろん、現在の戦士ランキング、一ヶ月の仕事のシフト、狩りのグループ、宴の催し物まで、情報が目白押しだった。  中には「発散したい時はこちら! あなたの好みが必ず見つかる!」なんてポスターまで貼られている。何かと思ったら、ヴァルハラで唯一認められている娼館のポスターらしかった。  ――えええ……? こんな施設、前にあったっけ……?  うーん……と、つい考え込んでしまう。  記憶がないとはいえ、これに関しては全く覚えがない。「好みが見つかる」なんて書いているけれど、ヴァルハラには男しかいないんじゃないだろうか。それとも、男の娘みたいな可愛い子でもいるんだろうか。わからない。

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