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第734話
「安心しろよ。もし指名されても、嫌な相手だったら断っていいし報酬もちゃんと出る。タダでセクハラされるより、ずっといい環境だと思うぜ。同じような仲間もいるし、あんたにとっては願ったり叶ったりだろ」
「いや、だからその……」
一方的に勘違いされて、アクセルは半歩後ろに下がった。
自分は上位ランカーからセクハラされたことはないし、性的なことに困ってもいない。ここで働くなんて考えられないし、不特定対数の客を相手にするなんて想像しただけでぞっとする。
だいたいこんなところで働いたら、フレインに申し訳ないではないか。彼は自分のことを大事にしてくれているのに、自分が身を切るような真似をしてどうするのか。
「ちょっときみ、うちの弟に何してるの」
フレインのことを想った瞬間、背後からその人が現れた。
突然の登場に、アクセルは目を見開いた。
「フレインさん……! どうしてここに」
「お前が全然戻って来ないから捜しに来たんだよ。スケジュール確認するだけなのに、妙に遅いんだもの。そしたら案の定、こんなところで掴まってるじゃない。追いかけてきて正解だったね」
「す、すみません……」
「……で? うちの弟に何の用? 変なこと考えてるならタダじゃおかないよ」
フレインが目を細めて凄んでみせる。普段は穏やかで優しいけれど、こうして怒りを滲ませるとやはり迫力があった。殺気だけで相手を殺せそうだ。
アンリとかいう男はややたじろぎながら、口早に言い訳した。
「いやいや、ちょっと誤解してただけです。最下位でこれだけ見た目がよかったら、絶対上の連中にセクハラされてると思って。フレイン様の弟だなんて知らなかったんですよ」
「じゃあこの機に覚えておきなさい。この子は私の大事な弟だ。変なちょっかいを出したら容赦なく血祭りに上げるからね」
「承知しました。ところで今日は遊んでいかれますか? お詫びに無料にしておきますよ」
「いや、結構。もう遊ぶ必要もないし」
そう言ってフレインは、アクセルの腕を掴んで早々に娼館を立ち去った。掴んでいる手に力がこもっていて、若干痛かった。
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