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第735話
――フレインさん、怒ってる……よな……?
アクセルが変なところで掴まっていたから、機嫌を損ねたのだろうか。こんなことなら、アンリなんかについて行くんじゃなかった。最初からきっぱり断っておけばよかった。
「アクセル」
家に帰り着いた途端、フレインに両肩を掴まれて問い詰められた。
「本当に大丈夫だった? 何もされなかった? 変なところ触られたりもない?」
「だ、大丈夫です……。契約書を渡されただけですから……サインもしてませんし」
「本当に? 本当にそれだけ? 脅されたり変な話吹き込まれたりもしてない?」
「してません」
「そうか……よかった……」
ようやくフレインはホッとしたように息を吐いた。
次いで、顔を近づけてお説教してくる。
「まったくお前は……本当に昔から危なっかしいんだから。怪しいと思ったらその前に逃げなさいって、何度言ったらわかるの? 好奇心だけで罠に飛び込むんじゃない」
「す、すみません……。いろんなことを見聞きした方が早く記憶も取り戻せるかもと思って……」
「だからそれは焦らなくていいって言ったでしょ。さっきみたいに変なトラブルに巻き込まれたら、本末転倒じゃないか。毎回私が助けてあげられるわけじゃないんだから、少しは危機意識を持ちなさいよ」
「すみません……」
しゅん……と肩を落としていると、今度は両手で顔を掴まれてコツンと額をぶつけられた。そして至近距離でこんなことを言われた。
「……記憶がなくても、本当にお前は変わらないね。以前ヴァルハラに来たばかりの頃も、男たちについて行って罠にかかったことがあって……。あの時は本当にギリギリで、お兄ちゃんは心臓止まるかと思ったよ」
「すみませ……」
「謝って欲しいんじゃなくてね、もっと気をつけて欲しいんだよ。お前が傷ついたら私は悲しい。お前が平気でも私が傷つくんだ」
「フレインさん……」
「だからもっと自分を大事にしなさい。お前のためじゃなく、私のために」
「……!」
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