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第740話

 二人でキッチンに入り、食材は何がいいか吟味する。  食料棚にはそれなりの食料が買い溜めされており、肉や魚、野菜がたくさんあった。とりあえずフレインの好きな肉をたくさん入れて、人参や白菜などの野菜も一緒にぶち込めばそれっぽい鍋が出来上がるはず……。 「……ん?」  食料棚の奥に、スモーク用の木片が入っているのを見つけた。こんなのもあるのか……とその隣を見たら、何故か木彫りも一緒に置いてあった。木彫りが紛れ込んだのかなと思ってそれを取り出したところ、明らかに誰かの全体像を象ったものだった。それにこの姿は、どこをどう見ても自分なのだが……。 「これは……」 「あ、そうそう。それ、お前が昔作ってくれた木彫りだよ」  驚いてフレインを見たら、彼は嬉しそうに笑った。 「お前がバルドル様のところに人質に出される時にね、一年間別れるのは寂しいからって私がおねだりしたら、お前が別れる直前にくれたんだ。木彫り、始めたばかりなのによくできてるよね。お前、昔から手先が器用だからなぁ」 「そうなんですか……」 「時間を持て余したら、またやってみるといいよ。いい趣味になると思う」 「はい……」  アクセルはキッチンの片隅に木彫りを置いた。  ――こんな精巧な木彫り、作れる気がしないな……。  よくこんなの作れたな……と以前の自分に感心してしまう。とてもじゃないけど、こんな八分の一サイズのフィギュアみたいな作品、今の自分には作れそうにない。等身大サイズだったらどうにかなりそうだけど……。  まあ、今は木彫りをやってる場合じゃないけどな……と思いつつ、アクセルは鍋の準備をした。土鍋に適量の水を張り、それを火にかけて沸騰したところでイノシシ肉を投入する。イノシシ肉は硬めなので、丁寧に煮込まなければならない。  柔らかく出汁が出てきたところで人参や白菜も一緒に煮込み、簡単なイノシシ鍋ができた。

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