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第741話

「できたできた! さ、いただこうか」  熱々の鍋を火から下ろし、二人で食卓を囲む。  フレインの食欲は凄まじく、あれだけたくさんの肉を入れたのに途中から全然足りなくなってしまった。野菜も多少は食べていたが、八割以上は肉を食べていたのではないかと思う。タンパク質の摂取は大事だけど、あまりに肉食すぎて少々呆れてしまった。 「明日死合いが終わったら、食材の買い出しにも行かないといけませんね」 「ああ、そうだね。鍋をやると食材も一気になくなるからなぁ」  あなたが肉を食い尽くしたんですけどね……と、心の中でツッコむ。 「でも、私はお前とつつく鍋が好きなんだ。ひとつの鍋を二人で共有するって、素敵なことだと思わない?」 「ええ、そうですね」 「鍋をつつける相手がいるのがどれだけありがたいか……こうしていると、身に沁みて感じるよ」 「……!」  そう言ったフレインは、見るからに幸せそうな顔をしていた。本当に、心から幸せそうに笑っていた。  この顔は辛酸を舐め尽くしたことがなければできない。孤独を味わい、地獄を見て、絶望を経験していなければ、「鍋をつつく」という行為にここまでの幸せを感じることはできない。  ――フレインさん……今までどれだけの苦労を……。  フレインは戦士ランキング三位の強者だ。けれど彼だって最初からランクが高かったわけではないし、下位ランカーの頃には上位ランカーのセクハラを受けていたと思われる。  それを跳ねのけて三位まで上り詰めるには相当な苦労があったはずだし、それ以外にもいろいろと苦労をしてきたのではないか。詳しいことはわからないけど、そう推測できる。 「フレインさん……」  苦労されましたね……と言いそうになって、慌てて言葉を呑み込んだ。  違う違う、そうじゃない。そんな安っぽい労いの言葉をかけても、フレインは喜ばない。そもそも、フレインに苦労をかけているのはアクセルのせいでもある。「誰のせいでこんな苦労してきたと思ってるんだ」と非難されそうだ。  だから、アクセルがかけるべき言葉はひとつだけ。

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