742 / 2296

第742話

「俺、これからはずっとあなたの側にいますから。いつ記憶が戻るのかわかりませんけど、もっと強くなれるように……あなたを支えられるように努力しますから。ご迷惑になることも多いでしょうが、それでもよければ側に置いてください」  そう言った途端、フレインは鍋を食べる手を止めた。  向かい側で固まってしまったフレインを見て、アクセルは少々ヒヤッとした。また言葉のチョイスを間違えてしまったか……? 「ねえアクセル、ちょっと横に来て」 「え……あ、はい……」  食器を置いて手招きしてくるので、さすがに断りきれなかった。  何をされるのかと思って少々緊張しながら隣に腰掛けたら、唐突にフレインがぎゅーっと抱き締めてきた。いきなりハグされて、ちょっと面食らった。 「あの、フレインさん……」 「嬉しいな。お前は間違いなくここにいる。何があってもお前はお前のままだ」 「…………」 「これからも一緒に思い出を作っていこうね。昔のことを思い出せなくても困らないくらい、いっぱい……いっぱい……」 「フレインさん……」  アクセルも、そっと手を伸ばして抱擁を返した。  ――以前もよく、こんな風に抱き締められていた気がする……。  嬉しい時、悲しい時、甘えたい時、寂しい時……様々な場面でこうして抱き締められた。そうすると妙に落ち着いて、愛されている実感が湧くのだ。具体的なことは覚えていないけど、この人に抱き締められる感覚を、身体がちゃんと覚えている。 「……はい、兄上」  早く記憶を取り戻したいという気持ちに嘘はないが、記憶がなくても何とかなるような気がしてきた。 ***  翌日。早起きしたアクセルは、当たり前のように庭に出て軽くランニングをした。多分以前の日課だったのだろう、こういうことは不思議と身体が覚えているものらしい。  ――なるべく早く体力を取り戻したいしな……。

ともだちにシェアしよう!