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第742話
「俺、これからはずっとあなたの側にいますから。いつ記憶が戻るのかわかりませんけど、もっと強くなれるように……あなたを支えられるように努力しますから。ご迷惑になることも多いでしょうが、それでもよければ側に置いてください」
そう言った途端、フレインは鍋を食べる手を止めた。
向かい側で固まってしまったフレインを見て、アクセルは少々ヒヤッとした。また言葉のチョイスを間違えてしまったか……?
「ねえアクセル、ちょっと横に来て」
「え……あ、はい……」
食器を置いて手招きしてくるので、さすがに断りきれなかった。
何をされるのかと思って少々緊張しながら隣に腰掛けたら、唐突にフレインがぎゅーっと抱き締めてきた。いきなりハグされて、ちょっと面食らった。
「あの、フレインさん……」
「嬉しいな。お前は間違いなくここにいる。何があってもお前はお前のままだ」
「…………」
「これからも一緒に思い出を作っていこうね。昔のことを思い出せなくても困らないくらい、いっぱい……いっぱい……」
「フレインさん……」
アクセルも、そっと手を伸ばして抱擁を返した。
――以前もよく、こんな風に抱き締められていた気がする……。
嬉しい時、悲しい時、甘えたい時、寂しい時……様々な場面でこうして抱き締められた。そうすると妙に落ち着いて、愛されている実感が湧くのだ。具体的なことは覚えていないけど、この人に抱き締められる感覚を、身体がちゃんと覚えている。
「……はい、兄上」
早く記憶を取り戻したいという気持ちに嘘はないが、記憶がなくても何とかなるような気がしてきた。
***
翌日。早起きしたアクセルは、当たり前のように庭に出て軽くランニングをした。多分以前の日課だったのだろう、こういうことは不思議と身体が覚えているものらしい。
――なるべく早く体力を取り戻したいしな……。
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