744 / 2296
第744話
「どうしたんですか、フレインさん。そんなに慌てて……」
「あ……アクセル……いたんだ……」
「はい、俺はここにいますよ」
「そうだよね……うん、そうだった」
「フレインさん……」
「いや、何でもない。そっか、朝からランニングしてたんだね。偉いなぁ」
「…………」
「せっかく起きたし、着替えて顔洗ってくるね。ご飯の支度もしてくるから、お前はそのまま鍛錬続けて」
「はい……」
何事もなかったように、室内に戻っていくフレイン。
それを見て、アクセルはひとつ確信したことがあった。
――やはり不安なのか……。
朝起きた時、アクセルはピシッとベッドメイクをしてからランニングを始めた。
それは単にやりっぱなしのままだと気持ち悪かったからだが、目を覚ましたフレインには、弟が忽然と姿を消したように見えたのだろう。昨日弟が復活したのは夢だったのかと混乱し、慌てて外に飛び出したに違いない。
――あの人はきっと、俺が思っているよりずっと脆い。
もちろん腕っぷしは強い。ランキング三位の実力者なのだから、それは間違いない。
でも心の中はどうか。穏やかな仮面で隠しているだけで、実はかなり脆いのではないか。もっとも、それは本人も自覚していたけれど。
「フレインさん……」
こういう言い方は非常に失礼だが――フレインは弟に縋っているようだった。少なくともアクセルはそう感じた。復活してから何度かハグされたが、あれは弟を慰めているのではなく、自分が弟に癒されているのだと。
しっかりして見えるのは「弟の前ではしっかりしなくちゃ」という兄の矜持からくるもので、本当の彼は愛情に餓えた孤独な青年だ。
だから突然弟がいなくなると不安になってしまう。自分を癒してくれる唯一無二の存在を、失いたくないと慌てふためく。
きっとフレインは、自分が欲しい時に愛情を注いでもらえなかったんだろうな……。
ともだちにシェアしよう!

