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第744話

「どうしたんですか、フレインさん。そんなに慌てて……」 「あ……アクセル……いたんだ……」 「はい、俺はここにいますよ」 「そうだよね……うん、そうだった」 「フレインさん……」 「いや、何でもない。そっか、朝からランニングしてたんだね。偉いなぁ」 「…………」 「せっかく起きたし、着替えて顔洗ってくるね。ご飯の支度もしてくるから、お前はそのまま鍛錬続けて」 「はい……」  何事もなかったように、室内に戻っていくフレイン。  それを見て、アクセルはひとつ確信したことがあった。  ――やはり不安なのか……。  朝起きた時、アクセルはピシッとベッドメイクをしてからランニングを始めた。  それは単にやりっぱなしのままだと気持ち悪かったからだが、目を覚ましたフレインには、弟が忽然と姿を消したように見えたのだろう。昨日弟が復活したのは夢だったのかと混乱し、慌てて外に飛び出したに違いない。  ――あの人はきっと、俺が思っているよりずっと脆い。  もちろん腕っぷしは強い。ランキング三位の実力者なのだから、それは間違いない。  でも心の中はどうか。穏やかな仮面で隠しているだけで、実はかなり脆いのではないか。もっとも、それは本人も自覚していたけれど。 「フレインさん……」  こういう言い方は非常に失礼だが――フレインは弟に縋っているようだった。少なくともアクセルはそう感じた。復活してから何度かハグされたが、あれは弟を慰めているのではなく、自分が弟に癒されているのだと。  しっかりして見えるのは「弟の前ではしっかりしなくちゃ」という兄の矜持からくるもので、本当の彼は愛情に餓えた孤独な青年だ。  だから突然弟がいなくなると不安になってしまう。自分を癒してくれる唯一無二の存在を、失いたくないと慌てふためく。  きっとフレインは、自分が欲しい時に愛情を注いでもらえなかったんだろうな……。

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