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第747話

 以前の自分がどう思っていたかはわからない。だけど、チェイニーの気持ちは嘘ではないなと思った。冗談めかしているものの、「デートして」と言ってきたのは100パーセント冗談ではないんだろうなと思った。  それでも自分は――チェイニーには申し訳ないが――フレイン以外を好きになることはないような気がする。例え記憶を失っても、何度もフレインのことを好きになると思う。  それが、自分の魂に刻まれた想いなのだ。  ――フレインさん……。  アクセルは前を見て、登場したフレインに視線を送った。  死合い前の戦士(エインヘリヤル)は観客を見ないのが普通だが、フレインは一瞬でこちらを見つけて視線を送り返してきた。  ――頑張ってください。  ――うん、もちろん。早く終わらせて買い物行こうね。  二人にしかわからない会話が、アクセルには誇らしかった。 『それでは、ただいまよりフレインVSノームの死合いを開始します』  天からヴァルキリーのアナウンスが聞こえてきた。同時に、スタジアムがシン……と静まり返った。開始前のわずかな静けさだ。 『開始十秒前、九、八、七……』  会場の空気がピリッと引き締まる。フレインが鍔に左手をかけ、チキッと鞘からほんの少し太刀を抜いた。開始と同時に抜刀する気だ。 『三、二、一……ファイト!』  瞬間、フレインの姿が消えた。いや、消えたように見えた。  瞬きもしないうちに、フレインは対戦相手の背後数メートルに移動していた。抜刀していた太刀をくるりと回し、パチンと鞘にしまう。  途端、対戦相手の全身から血が噴き出した。首こそ飛ばなかったものの、身体中を滅多斬りにされてドサッと地面に倒れ込む。血の海に沈み、既に虫の域になっていた。  一方のフレインは返り血ひとつ浴びていない。 『勝者、フレイン。遺体回収班は遺体を棺に運んでください』  再び天からアナウンスが聞こえて、ハッと我に返る。あまりにもあっさり終わってしまったので、ちょっと拍子抜けした。

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