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第748話

 ――フレインさん……やっぱりすごい……。  太刀筋がほとんど見えなかった。彼の移動速度も凄まじく、目で追うことすら難儀した。これがランキング三位の実力か……と感動する一方で、自分との実力差をまざまざと思い知らされた。  ――もっともっと鍛錬しなければ、あの人には追い付けない……。  身体が鈍っていることもそうだが、調子を取り戻したとしても、フレインと対等に渡り合える気がしない。以前の自分は本当に彼と肩を並べられていたんだろうか。ちょっと疑問だ。 「すごいなーフレイン様。今日も一瞬で終わっちゃった。ま、上位ランカーなんてみんなあんな感じだけどさ」  と、チェイニーが感慨深げに言う。 「てか、どうせ死合いをするなら、ランクが近い者同士で戦った方が面白いと思うんだよなー。以前ランゴバルト様とフレイン様が死合ったことあるけどさ、あの時なんか超満員の大盛り上がりだったもんな。またああいう死合いやって欲しいなー」 「ああ、そうだな……」 「そうだな、ってアクセル覚えてんの?」 「いや……ハッキリとは覚えてないんだけど、身を震わせるような感動を味わったような気がする」  死合い内容は思い出せない。でもあの時の感情は何となく覚えている。全身に鳥肌が立ち、興奮のあまりその場で暴れ出しそうなほど、素晴らしい感動を味わった。頭ではなく、全身でそれを感じた。  持てる力の全てをぶつけ合い、命を削り合いながら二人だけの世界に没入する。想像するだけでわくわくしてしまう。  ――俺も、フレインさんとそんな死合いがしたい……。  退場していくフレインの背中を見ながら、アクセルはそんなことを思った。彼と本気で死合うことが、記憶を失くす前からの夢だったのだ。 「んじゃ、オレはそろそろ行くわ。この後棺当番入ってるんだよな」  と、チェイニーが腰を上げる。

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