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第751話

 ――フレインさんが休むところなのに、こんな埃だらけってホントあり得ない……。  腹立たしく思いながら棺を拭いていると、フレインが嬉しそうにこう言った。 「そう言えばお前、さっき兄上って呼んだよね」 「えっ? 言ってました?」 「言ってたよ。無意識だったの?」 「全然意識してませんでした……すみません」 「いや、いい傾向だよ。ちょっとずつ思い出してるみたいで、お兄ちゃんは嬉しい……げぼっ」 「あああ、大丈夫ですか!? すぐ終わりますから、あと少し我慢しててください」  アクセルは急いで棺全体を磨き、フレインが入っても大丈夫なくらいに汚れを取り除いた。そしてフレインに汚れた服を脱いでもらい、下着一枚の状態で棺に入ってもらう。このままでは寒いだろうから、一緒に毛布も入れてあげた。 「あーあ、悔しいなぁ……お前とデートする予定だったのに……」  蓋を閉める直前、フレインは不満げに口を尖らせた。その仕草がちょっと可愛くて、アクセルは苦笑しつつ答えた。 「デートなら毒が抜けた後でいくらでもできますよ。明日でも明後日でも、いつでもお付き合いします。だからまずは毒を抜いてください。気持ち悪い状態じゃ、楽しめるものも楽しめないでしょ?」 「そうだけどさぁ……」 「俺、ずっとここで待ってますから。少しの間だけ、おやすみなさい」  未だに不満げな目をしていたが、アクセルはかまわず棺の蓋を閉めた。  そして汚れた服を抱え、一度家に戻る。念入りに服を洗濯し、陽がよく当たる場所に干し、フレインが着る別の服を用意して、再び棺に戻った。  フレインはまだ目覚めていなかった。  ――毒抜きだから、蘇生よりは時間がかからないと思うが……。  あと一時間くらいかな……などと考えつつ、アクセルは棺の側で待ち続けた。  ただじっと待っているだけというのも時間の無駄なので、その場で腕立て伏せや腹筋、柔軟体操等のトレーニングを行った。

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