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第754話

 頭をかち割られそうになり、全身を焦燥感が駆け巡った次の瞬間、背後からバーンと大きな音がした。棺の蓋が開く音だった。 「……私が寝ている間に弟にちょっかい出そうなんて、いい度胸してるね?」 「げっ……! もう起きてきやがった……!」  下着しか身に付けていないフレインが、毛布を固く握り締めている。握っている拳に血管が浮き上がり、全身から殺気を放出している。怒り心頭なのは明白だった。  フレインは棺の側に置いてあった愛用の太刀を掴み、男たちに向かって言った。 「さ、誰から斬られたい? 大丈夫、ここには空いている棺がいーっぱいあるからね。滅多斬りにされてもすぐに治るよ」 「す……すみませんでしたぁぁ!」  男たちは一気に態度を翻し、気絶した仲間を引きずって退散していった。  ――まったく、睨まれただけで逃げるなら、最初からこんなことするなよ……。  性根の腐った戦士もいるもんだな……と呆れていると、フレインがすっ飛んできた。 「大丈夫? 怪我は? どこも斬られてない?」 「ああ、大丈夫ですよ。怪我も特にありません」 「本当に? 変なところ触られたりとかは……」 「それもないです。最初は変なことしようとしてたみたいですけど、一人投げ飛ばしてやったら武器を構えてきたんで」 「そっか……。やっぱりあいつら、斬っとけばよかったなぁ」  残念そうに言うフレイン。冗談でも何でもなく、彼は最初から斬る気満々だったようだ。男たちが逃げなければ、本当に全員滅多斬りにしていたのだろう。 「というかお前、なんであいつら斬らなかったの? 向こうが殺す勢いでかかってきてるんだから、こっちもその気で対応しないとダメじゃない」  新しく用意した服に袖を通しつつ、フレインが軽く叱ってくる。  アクセルは素直に謝罪し、理由を述べた。 「すみません……。フレインさんが寝ている棺をあいつらの血で汚したくなくて」 「えっ?」

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