754 / 2296
第754話
頭をかち割られそうになり、全身を焦燥感が駆け巡った次の瞬間、背後からバーンと大きな音がした。棺の蓋が開く音だった。
「……私が寝ている間に弟にちょっかい出そうなんて、いい度胸してるね?」
「げっ……! もう起きてきやがった……!」
下着しか身に付けていないフレインが、毛布を固く握り締めている。握っている拳に血管が浮き上がり、全身から殺気を放出している。怒り心頭なのは明白だった。
フレインは棺の側に置いてあった愛用の太刀を掴み、男たちに向かって言った。
「さ、誰から斬られたい? 大丈夫、ここには空いている棺がいーっぱいあるからね。滅多斬りにされてもすぐに治るよ」
「す……すみませんでしたぁぁ!」
男たちは一気に態度を翻し、気絶した仲間を引きずって退散していった。
――まったく、睨まれただけで逃げるなら、最初からこんなことするなよ……。
性根の腐った戦士もいるもんだな……と呆れていると、フレインがすっ飛んできた。
「大丈夫? 怪我は? どこも斬られてない?」
「ああ、大丈夫ですよ。怪我も特にありません」
「本当に? 変なところ触られたりとかは……」
「それもないです。最初は変なことしようとしてたみたいですけど、一人投げ飛ばしてやったら武器を構えてきたんで」
「そっか……。やっぱりあいつら、斬っとけばよかったなぁ」
残念そうに言うフレイン。冗談でも何でもなく、彼は最初から斬る気満々だったようだ。男たちが逃げなければ、本当に全員滅多斬りにしていたのだろう。
「というかお前、なんであいつら斬らなかったの? 向こうが殺す勢いでかかってきてるんだから、こっちもその気で対応しないとダメじゃない」
新しく用意した服に袖を通しつつ、フレインが軽く叱ってくる。
アクセルは素直に謝罪し、理由を述べた。
「すみません……。フレインさんが寝ている棺をあいつらの血で汚したくなくて」
「えっ?」
ともだちにシェアしよう!

