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第756話

 次々と衣装を脱いでは着せられ、ほとんどマネキンのように扱われ、口から魂が出そうになったところで、ようやくフレインは満足したようだった。両手に抱えきれないほどの新しい衣装を持ち、上機嫌で市場を出る。  本当は追加の食材もいろいろ買いたかったのだが、さすがにもう買い物する元気がなかった。洋服の買い物って、どうしてこんなに疲れるのだろう……。 「あ~、楽しかった! こんなに買ったの初めてかも」 「……そうですか。よかったですね」 「うん、最高! 家に帰ったら着てみてね!」 「はい……」  もう返事をするのも面倒になり、適当に相槌を打ってごまかした。  家に戻り、荷物を片付けてアクセルは庭に出た。  庭ではピピがおとなしく留守番しており、アクセルが出て行った途端喜び勇んでこちらに駆け寄ってきた。 「ただいま、ピピ。さっきフレインさんと市場で買い物してきたんだけどな、洋服しこたま着せられてもうヘトヘトだよ。俺は着られればなんでもよかったのに」 「ぴ?」 「まあ、フレインさん自身はめちゃくちゃ楽しそうだったからいいようなものの……気力を削がれて食材の買い物ができなかったんだ。ごめんな、ピピ。今日の野菜スープはちょっと具が少なめになるかもしれない」 「ぴー……」 「明日改めて食材の買い出しに行くよ。そしたら野菜たっぷりの美味しいスープ作ってあげるからな」 「ぴ♪」 「さ、一緒に走ろう。まずは基礎体力をつけないとな」  そう言って、アクセルは駆け出した。ピピも並走してぴょんぴょん走ってきた。  ――俺の死合いは今から二日後……コンディション整えておかなきゃ……。  誰が相手であろうと、自分より高ランクであることは変わりない。  鍛錬頑張ろう……と思っていたら、フレインが丸太を乗せた荷台をゴロゴロ押してきた。そして予告なしに太い丸太を投擲され、危うく顔面を潰されそうになった。

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