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第760話

 ――フレインさん……。  目だけでフレインのいるボックス席を見たら、彼はにこりとこちらを見返してきた。その顔が「お前は大丈夫」と言っていた。  それで全ての緊張が解けた。 『開始十秒前……九……八……七……』  カウントダウンが始まる。それにつれて徐々に何も聞こえなくなってきた。観客が静まり返り、集中力も高まってくる。 『三……二……一……ファイト!』  ディーンがこちらに突進してくる。素早い動きで手斧を振りかぶり、こちらの首を落とそうとしていた。  ――見える……!  動きはそれなりに速いのだろうが、このくらいなら余裕で目視できる。フレインの神速抜刀術を見慣れているからか、むしろノロマに思えるくらいだ。  ――これならイケる……!  ディーンが間合いに入ってくる。斧がこちらに迫ってくる。  アクセルも二振りの小太刀を抜刀し、相手の斧を弾き飛ばそうとした。  だが次の瞬間、視界の端から小さな壺が飛んできた。掌に隠せるほどの小壺であった。  それがディーンが投擲したものだと気づくには、数瞬の時間を要した。 「っ……!」  小太刀の軌道上に投げられたため、勢い余って小壺を叩き割ってしまう。  すると案の定、中から白い粉末が飛び散ってきた。  ――しまった……!  目潰しの粉……と気付いたが一瞬遅く、顔に思いっきりその粉を浴びてしまう。細かな粉末が目の粘膜に入り込み、生理的な激痛が走った。 「っ……!」  手斧が振り下ろされたのを感じ、咄嗟にディーンと距離をとった。どうにか間合いの外に逃げたものの、目が痛くてどうしても開けられない。  ――くそ……。「泣かせてやる」ってこういう意味だったのか……。  確かにこれは涙が出そうだ。下位ランカーに目潰しを行うなんて、卑怯なことこの上ない。視界を奪われてしまったら、嬲り殺し一直線ではないか。 「おらァ!」  ディーンが容赦なく斧を振るってくる。  肌を刺すような殺気を頼りに、アクセルはサッと身体を捻った。すぐ横で風を切る音がして、続けざま腹部を斧が掠める。

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