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第762話
――ああ、そうか……。
俺は以前、どこかでこういう稽古をつけてもらったことがある。視覚に頼らないで戦う方法を教えてもらったことがある。どこの誰かはハッキリ覚えていないけれど、身体はその時の経験をしっかり覚えているようだ。
視界が奪われても焦ることはない。残った感覚――聴覚、嗅覚、触覚等を頼りに動けばいいだけのこと。
それに、視覚が役に立たない分、かえって反応速度が上がることもある。見て反応できないなら、見る前から反応すればいいのだ。
「ぐ、おぉお……!」
腕を落とされたディーンは潰れたような呻き声を出し、こちらと距離をとった。そして驚愕に目を見開きながら、怒り狂った声を上げた。
「意味わかんねぇ! 目が見えなくなったらもう戦えねぇはずだろ! 何なんだよ、お前は! 何で動けるんだよ!」
「何故と言われても……」
「ああああ、忌々しいぜ! 最弱の最下位ランカーに腕を落とされるなんてよおぉぉ!」
悔しい気持ちはわかるが、アクセルは最近復活したから最下位スタートなだけで、最弱というわけではない。それに、強くなるための努力もした。毎日走り込みをしたり、感覚を取り戻すために何時間も素振りしたりしたのだ。
そういった努力が、ディーンよりも少し多かっただけのこと。
――そう、俺はもっと強くなりたい。こんなところで負けていられない……!
次で決めよう、と思いつつ、アクセルは小太刀を握り直した。
呼吸を整え、感覚を研ぎ澄まし、視覚以外で相手の動きを捕捉する。
「くそがァァ!」
ディーンが動いた。怒り狂ったままこちらに突進し、残った腕で手斧をめちゃくちゃに振り回してくる。
その中でアクセルは、ディーンに届く真っ直ぐな線を見つけていた。目は見えないけれど、確かに見えていた。ここを通れば彼の首まで手が届く。
「たあぁぁっ!」
一気に間合いの内側に飛び込み、彼の懐目掛けて小太刀を振り抜いた。
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