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第769話
首を傾げていると、フレインも一緒に首を傾げた。
「私が知らないなら、お前が人質に行っている間に稽古をつけてもらったのかな。目を使わない……ってことは、きっとホズ様だね」
「ホズ様……?」
「バルドル様の弟だよ。以前は盲目だったんだけど、今はそうじゃないのかな。ちなみにバルドル様はオーディン様の息子でね、とても優しい神様なんだよ。お前が人質に行っている間も、とてもよくしてもらったって、お前は常々言っていたんだ」
「バルドル様……」
言われて、うっすらと穏やかな顔が思い浮かんだ。
心なし兄・フレインと似ていて、いつも優しい微笑みを浮かべていた気がする。やや寂しがり屋で、人質に行った自分を客人のように迎えてもてなしてくれた。
具体的なエピソードは覚えていないけど、穏やかで平和な思い出はうっすらと身体に染み込んでいる。
「兄上……俺、バルドル様とホズ様に会いたいです」
「ありゃ、本当?」
「今すぐは無理かもしれませんが、可能なら挨拶に行きたいです。きっとたくさんお世話になっただろうし、ホズ様に稽古をつけてもらったらまたいろいろ思い出せるかも」
「ああ、確かに。じゃあ今度アポとって挨拶に行こうか。バルドル様もホズ様も、お前のこと心配してたしね。元気な顔を見せればきっと喜ぶよ」
「はい」
アクセルは笑顔で頷いた。またひとつ楽しみが増えて、我ながら嬉しかった。記憶が曖昧でも、ヴァルハラでの生活はとても楽しい。
「うーん……やっぱり初心者コースにはなかなか動物出てこないね」
と、フレインが周囲を見回す。
山の景色は美しいが、その分狩れるような動物の気配はなく、いたとしても小鳥がピーチクさえずっているくらいだった。鹿どころか、猪の気配も皆無だ。
「あーあ、今日は新鮮な鹿肉のすき焼きが食べられるかと思ったんだけどなぁ」
「まあいいじゃないですか。鹿肉なら家にも保管されてますし」
「市場で買ったものじゃなくて、お前と一緒に狩った鹿肉が食べたかったの!」
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