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第770話

 口を尖らせてわがままを言ってくるので、アクセルはつい笑ってしまった。時折こうして兄らしからぬ言動を見せるところも、フレインの長所だと思う。常に兄ぶって偉そうな態度をとられるより、ずっと親しみが持てる。 「しょうがない。本格的な狩りはまた今度ということにして、今日はのんびり散策することにしよう。山菜を探してみるのもいいな」 「はい。……あ、でも俺、夢中になって迷子になってしまうかもしれないので、兄上はちゃんと見張っててくださいね」  そんなことを言いつつ、二人はのんびり山を楽しんだ。  初心者コースは道も平坦かと思いきや、一歩茂みに入ると謎の罠や落とし穴が仕掛けてあって、油断していたアクセルは危うく引っ掛かりそうになった。  その度にフレインに襟首を捕まれ、「危なっかしいなぁ」と笑われ、自分の未熟さに苦笑しつつも、またもや同じ罠に引っかかりそうになる……ということの繰り返しだった。 「お前、わざと罠にかかろうとしてる?」 「いえ、そんなことは……。でも兄上がいると安心してしまって、つい警戒心が薄れてしまうのかもしれません」 「はー……やっぱりお前、全然変わってないなぁ。以前も私がわざと寝込みを襲ったことあったけど、その時も警戒心ゼロでさっぱり起きなかったもんね」 「えっ……!? そんなことありましたっけ?」 「あったよ。人質に行く前に、心配になって試したら……まあ起きない、起きない。せめて挿れられる前には起きて欲しかったけど、ズボッてやられるまで起きないとか、さすがにあり得ないなぁと思ったね」 「っ……!」  赤裸々な思い出話を聞かされ、アクセルは両手で顔を覆った。耳の先まで熱くなり、恥ずかしくてたまらなくなる。  ――うう……それはあまり思い出したくなかった……。  身体を思いっきり弄ばれているのに、挿入されるまで起きないなんて聞いたことがない。いくら何でもその前段階で起きるだろうと思うのだが、フレインの話では、自分は起きなかったそうだ。  どうにも信じ難いが、フレインがここまで呆れているのだから事実なのだろう。

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