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第772話

「あああ、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ。こういうのは大事なことだから、本調子になってからの方がいいと思って……」 「俺はもうとっくに本調子です。忘れていることが多いだけです」 「そ、そうだね……そうかもしれない……ごめんね、本当に……」  フレインの声のトーンが徐々に落ちていく。眉尻が下がり、明らかに困った顔になっていた。  ――しまった、逆に落ち込ませてしまった……!  非難したかったわけではないのだ。アクセルは急いでフォローした。 「いえ、こちらこそすみません。兄上が俺のことを大事に思ってくれているのはわかるんです。俺はいろいろ危なっかしいから、つい過保護になってしまうんですよね?」 「そうかも……。私にとってお前はいくつになっても弟だから、心配になることも多いんだよね……。でも、お前にとっては余計なお世話なことも多かったりして……。わかってるんだけど、つい守ってあげたくなっちゃうんだよなぁ……」 「いえ、余計なお世話だなんてそんな。兄上がいなかったら、俺は今ここにいませんから」  力強くそう言い切ってから、アクセルは続けた。 「ただ、それとは別に俺は本当にあなたのことが好きなので……。いつでも受け入れる覚悟はできていますし、何なら今夜でも全然……」  思い切ってフレインの手を握り締める。そしてわざと挑発するように言ってやった。 「それとも、今の俺なんかじゃ反応しませんか?」 「……お前、どこでそういう誘い方覚えてくるんだい? お兄ちゃん、そんな子に育てた覚えはないんだけど」 「どこでしょうね? よく覚えてません、記憶喪失ですから」 「記憶喪失を都合よく使うんじゃないの」  ペシッ、と額を軽く叩かれたが、悪い気はしなかった。  フレインもこちらの手を握り返して、言った。

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