789 / 2203

第789話

「と、とにかく! 今はやらないからな! 変なことしたらしばらく口利いてやらないぞ!」 「えー……それは嫌だな。お前に口利いてもらえなかったら、寂しくて死んじゃうよ」  冗談めかしてそう言った後、兄はやんわりと離れていった。ここでやるのは諦めてくれたみたいだ。少しホッとした。 「じゃあ身体綺麗にしてくるね。上がったらすぐご飯にしたいから、お肉焼いといてくれると嬉しいな」 「え? 朝からステーキ食べる気か? よくそんな食欲あるな……」 「やだな、戦士たるもの食欲は大事だよ。もちろん食欲だけじゃなく、人間の三大欲求はみんな大事」 「三大欲求……」  要するに兄は、食欲も睡眠欲も性欲も抑えるつもりはないということだ。お腹が空いたら食べたいものを食べるし、眠くなったら自然と起きるまで寝るし、性欲が高まったら何度でも弟を抱く。  正直いいのか悪いのかわからないけれど、兄が元気でやりたい放題にやってくれている方がイキイキしていていいかもしれない。こちらとしても、深刻な顔をされるよりずっと気が楽になる。 「わかったよ。余っている鹿肉を焼いておく」 「ありがとう。よろしくね」  兄は鼻歌混じりに浴室に消えていった。  アクセルは急いで新しい服を身に付け、汚れたベッドのシーツや枕を全部洗濯籠に放り込み、玄関口に置いておいた。このまま寝室に放置してしまったら、官能的な匂いがとれなくなりそうだったのだ。  洗濯の衣類をまとめた後、アクセルは台所に行って朝食の準備をした。兄にリクエストされた鹿肉のステーキ、それにパンを軽く焼いて、後はサラダとスープを用意すればいいだろう。ピピの食事も一緒に作っておかなくては。  アクセルはせっせと肉や野菜を切り刻み、フライパンで焼いたり鍋で煮たりした。ピピ用のスープは量が必要なので、大鍋でたっぷり煮込んでやる。  ――後はパンを焼いて……飲み物はミルクでいいか……。

ともだちにシェアしよう!