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第790話
ステーキと野菜を一緒の皿に盛り付け、リビングのテーブルに向い合わせで置いた後、ピピのところにスープの大鍋を持って行った。
「ピピ、ご飯だぞ」
そう呼びかけた途端、ピピが喜び勇んですっ飛んできた。勢い余って衝突しそうになり、危うく鍋のスープをこぼすところだった。
「おはよう、ピピ。今日も元気で何よりだ」
「ぴー♪」
「ほら、きみの大好きな野菜スープだぞ。たくさん野菜切ったから味も出ていると思う」
「ぴーぴー!」
早く食べたい、とせっついてくるピピ。
気持ちはわかるがこのままだと火傷しそうなので、アクセルは少し水を足して温度を下げてから鍋を地面に置いた。
「よし、食べていいぞ」
「ぴー♪」
その瞬間、ピピが鍋の中に顔を突っ込んでむしゃむしゃ貪り始める。
たくさん煮込んだはずのスープがあっという間になくなってしまって、これで本当に足りたのか心配になった。昼食はもう少したくさんの野菜を用意する必要があるかもしれない。
「ところで、ピピは何かやりたいこととかないか?」
「ぴ?」
「うちの庭は広いけど、ずっと一人で留守番じゃ退屈だろ? たまには山に行きたいとか、仲間と思いっきり駆けっこがしたいとか、そういう要望はないのか?」
「ぴ……」
「俺、あちこちでいろんな経験をしたおかげか、少しずつ記憶が戻ってきてるんだよ。ピピと一緒に何かすれば、またいろいろ思い出すかもしれない。行きたい場所とか、やりたかったこととか、あれば遠慮なく言ってくれ」
「ぴー……」
ピピは何かを考えるように、少し首を捻った。そして鍋から顔を上げ、たどたどしい口調でこう言った。
「やまにいきたい」
「山か……。そう言えばピピは山出身なんだよな」
確か初めての狩りで獲物を探していた時、たまたま怪我をした子うさぎを見つけたので布を巻いてあげた。それがピピだった覚えがある。
――そうだよな……たまにはピピも里帰りしたいよな。
そう思い、アクセルはピピを撫でながら言った。
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