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第792話
「いや、だから下位ランカーだよ。殺しても棺に入れちゃえば復活するから、狩りの対象にされることも稀にあるんだよね」
「なっ……!? はぁっ!?」
サラッと言われた台詞に、思わず耳を疑う。
狩りの対象にされる? 山の動物と同じように? そんなことあり得るのか?
――セクハラどころの話じゃないだろ、それ……!
路地裏に誘い込まれるくらいなら可愛いものだ。
武器を持った上位ランカーに追いかけ回され、多勢に無勢で攻め立てられた挙句、暇つぶしのために殺されるなんて冗談じゃない。いくら棺に入れれば復活するとは言っても、そんなことのために命を消耗するなんてあり得ないだろう。
さすがに腹が立って、アクセルは言った。
「何だよそれ。そんなのどこをどう考えてもアウトだろ。何でそんなふざけたことするヤツを野放しにしてるんだ」
「いや、野放しにはしてないけどね。少なくとも、表向きはそんなことしているヤツはいないよ。実際にやってるところを見つかったら一発でアウトだし……、ラグナロクが終わってからは一度も聞いた事がない」
「だったら……」
「ただ、聞いた事がないだけで、巧妙に隠しながらやっている人はいるかもしれない。そもそも昔の治安が悪いヴァルハラでは、当たり前のように行われていたからね。かくいう私も、狩りの対象にされたことあるし」
「……えっ?」
「あ、言ってなかったっけ? 私みたいな見た目だと、セクハラされるのも狩られるのもよくあることだったんだよね。さすがにうんざりしたから『もっと強くなろう』って思ったし、治安回復に努めることもできたわけだけど」
「…………」
違う意味での衝撃だった。
敬愛する兄がかつてそんな目に遭っていたなんて、考えたくなかった。
――兄上……今までどれほどの苦労を……。
兄だって最初からランキング三位だったわけではない。ヴァルハラに来たばかりの頃は最下位からのスタートだったはずだ。
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