796 / 2204
第796話
「じゃあ、たまには宴にでも参加してくる?」
「……宴? いやそれ、鍛錬どころか遊びに行ってないか?」
「半分は遊びだけど、ユーベルが華麗な舞を披露してくれる時を狙って行けば、なかなか実のある宴になると思うね」
「……!」
そう言えばヴァルハラに来て間もない頃、初めて顔を出した宴で刺激的な舞に付き合わされた覚えがある。
ランキング四位の強者であるユーベルが、リボンのような薄い刀を回転させて優雅に周囲を切っていた。当時のアクセルは兄のサポートもあって何とか切られずに済んだが、宴に参加していた他の連中は、棺送りになったり泉行きになったりと、怪我人が続出していたものだ。
危険極まりなかったものの、ギリギリの攻防で血が滾っていく感覚は思った以上に心地よかった。あの感覚は、狂戦士になった時の興奮状態に近い。
「ユーベルの舞は楽しいよ。死ぬほど過激で、スリル満点だ。最近はユーベル歌劇団の連中ともっと過激な舞を練習してるみたいだから、以前よりも更にスリルを味わえるはずだよ」
「なるほど……それは確かに興味深いな」
「でしょ? じゃあ私はユーベルに宴の予定を聞いてくるから、一緒に参加しようね」
「ああ、わかった」
その後の予定は結局立たなかったため、アクセルは自宅の庭でひたすら鍛錬をすることにした。単純な走り込みだけでも基礎体力向上には欠かせないので、ピピに並走してもらいながら庭を何周も走り回った。
「あー……やっぱり体力落ちてる気がする……」
何キロ走ったかわからないが、少し水分補給を……と思ってアクセルはお気に入りの塩入りはちみつレモンを飲み干した。渇いた身体に水がぐんぐん沁み込んでいく。
――兄上、あんな見た目なのに全然息乱してなかったもんな……。
自分は途中で力尽きてしまったが、兄は朝起きた時も元気そうだった。一体どんな鍛錬をすればあんな体力をつけられるのか、疑問である。単なる走り込みだけではないのだろうか……。
「御免、フレイン殿はいらっしゃるか」
ともだちにシェアしよう!