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第797話

 その時、玄関で野太く古風な声がした。どうやら兄に来客のようだ。  アクセルは急いで庭から表に回り、玄関に向かった。  が、ドアの前に立っている人を見たらちょっとびっくりしてしまった。  ――ず、随分大きな人だな……。  その人は単に背が高いだけではなく、全体的に筋肉質で体格もがっちりしていた。本当に「大きい」という言葉がふさわしい人だった。  アクセルも決して背が低くはないが――身長なら一八〇センチ近くあるのだが――この人を前にすると当たり前に視線が上向いてしまう。  でもランキング二位のランゴバルトとは違う。兄を訪ねてきたからランクの近い戦士のはずだが、この人は確か……。  彼はこちらを見て、腕組みをして言った。 「弟君(おとうとぎみ)か。フレイン殿はご在宅か?」 「あ、いえ……兄は少し出払っておりまして。今はユーベル様のお屋敷にいるかと思います」 「ふむ、そうか。また優雅な茶会に参加しているのだな」 「いえ、宴の予定を尋ねに……」 「なるほど。ではまた出直すことにしよう。失礼した」  と、あっさり背を向けていく男性。  そのまま帰ろうとするので、アクセルは慌てて声をかけた。 「あ、あの、あなたケイジ様ですよね? ランキング六位の……」 「いかにも」 「兄に御用なら、俺が言付けしましょうか?」 「いや、かまわぬ。また特別訓練を忘れているようだったので、自宅にいるようなら庭で手合わせを……と思っただけだ」 「特別訓練……?」 「上位ランカー同士で手合わせするものだ。公式の死合いだけでは身体が鈍ってしまうので、定期的に行うことにしているのだが……どうもフレイン殿はその辺りのスケジュールが抜けやすいようだ」  要するに兄は、訓練をすっぽかしてケイジに待ちぼうけをさせた……ということらしい。 「すみません……。後でよーく叱っておきますので」 「いや、よくあることだ。では私は自主鍛錬に戻るとしよう」  そう言って、ケイジは今度こそ立ち去ろうとした。

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