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第798話

「あ、あの!」 「何か」 「もしケイジ様さえよろしければ……その鍛錬、俺も一緒にやっていいですか?」  ほぼ反射的にお願いしていた。深い考えはなかった。  ただ、兄と近いランクの強者と一緒に鍛錬すればもっと強くなれる……そう思った。  それに、兄に鍛錬をすっぽかされたのなら、代わりに自分が鍛錬してもさほど迷惑にはなるまい。  するとケイジは顎に手を当てて、言った。 「ふむ、それはかまわんが……私が常にやっている基礎訓練と同じだぞ?」 「大丈夫です。体力ももっと向上させたいと思っていたので」 「そうか、弟君は真面目だな」 「いえ……。俺はまだまだ実力不足なので、もっと鍛錬しないといけないんです。狂戦士モードもまだ思い出せていませんし」 「狂戦士? それは別に思い出すようなものでもないが……」 「えっ?」 「オーディン様の眷属(エインヘリヤル)たるもの、どんな状況でも自由に狂戦士になれねばならん。呼吸をするように当たり前のことゆえ、思い出すようなことでもないのだ」 「そ、そうですか……」  つまり、上位ランカーにとっては「できて当たり前」ということだ。  ――はあ、さすがは上位ランカーというか……。  ちょっと言葉を交わしただけで、実力の差を思い知らされてしまう。ケイジの死合いは見たことがないが、一体どれほど強いのだろうか。もし兄と戦うことがあったら是非見てみたい。 「では修行場まで走っていく。遅れずについてくるように」 「はい。……って、えっ!?」  頷いた次の瞬間には、ケイジの姿は遥か先に遠ざかっていた。  ――ちょ、速すぎだろ! 何だこのスピードは!  アクセルは慌ててケイジの後を追った。  自分も決して足が遅いわけではない。どちらかというと速い方だと思っている。  だけどケイジのスピードはなんだ。速すぎる。少なくとも、自分がウォーミングアップする時の二倍は速い。

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