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第800話

「最初に忠告しておくが、基礎訓練で棺行きになっては本末転倒である。休憩は各自好きなタイミングでとるように」 「……え? 基礎訓練で死ぬことなんてあるんですか?」 「ある。今まで何人もの者が棺送りになるのを見てきた。真面目な者ほどその傾向が強い」 「……!」 「故に、無理は禁物である。早く強くなりたいからといって、自分の体力や筋力を見誤ることのないように」 「はい、わかりました」  つまり自分のような人ほど、無理して棺送りになってしまう可能性が高いということか。訓練で死んでは本末転倒だし、気をつけなくては。 「では私は滝に打たれてこよう。弟君は少し休憩してから始めるとよい」 「はい」  アクセルが頷くと、ケイジはさっさと上着を脱いでザブザブと水に入っていった。そして滝の下に移動し、呪文のようなものをブツブツ唱えながらじっと滝に打たれ始めた。  ――難易度はともかく、思ったよりシンプルな訓練だな……。  滝修行も、丸太担ぎも、岩を押すのも、全部自分一人でできるものだ。特別なことはない。  これなら誰かにつき合ってもらわなくても一人でできるし、日々の鍛錬に加えてみるのもいいかもしれない。  ――さてと、俺もやるか。  少し準備運動をして身体を解した後、アクセルも上半身裸になり水の中に入ろうとした。  ところが、爪先を少し水に浸したところで反射的に足を引っ込めてしまった。 「っ……!」  何だこれは。冷たい。冷たすぎる。凍っていないのが不思議なくらいだ。少し水に浸っただけなのに、反射的に身体が逃げ出す有様である。  ――え、ちょ……嘘だろ……?  驚愕して顔を上げたら、ケイジは何事もなくひたすら滝に打たれていた。水の冷たさなど微塵も感じていないようだった。  ――えええ!? ケイジ様、何で平気な顔してるんだ!?  冷たい水に打たれすぎて、皮膚の感覚が麻痺してしまったのか? それとも、狂戦士モードに入って何も感じない身体になっているのか?  どちらにせよ、当たり前の感覚では滝の下に入ることも難しい。ただの滝修行だと思っていたのに、いきなりつまづいてしまった。  さて、どうしよう……。

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