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第805話

「でもケイジ様は、毎日こういった訓練を当たり前のようにこなしているんですよね」  と、アクセルは感嘆の息を吐いた。 「滝に打たれる時の心得とか、何かあるんですか?」 「心得とは?」 「この水、凍りそうなほど冷たいでしょう? 上から落ちてくると石みたいに重くなるし、ちょっとでも気を抜いたら死にそうだし。でもケイジ様は平気な顔して打たれていらっしゃったので、心構えからして俺とは違うんじゃないかと……」 「…………」  するとケイジは、腕組みをしてこちらを見下ろしてきた。殺気はないのだが、上位ランカー特有の迫力に圧倒されそうだった。 「心頭滅却すれば火もまた涼し」 「えっ……?」 「集中力を極限まで高めれば、水の冷たさなど感じなくなるものだ。水が冷たいなどと思うのは、集中が足りない証拠である」 「そ、そうですか……」 「あとは強靭な足腰だな。足腰さえしっかりしていれば、どんなに重いものが上から落ちて来ても負けることはない。何時間でも滝に打たれていられる」 「はあ……」  つまり自分が滝修行で気絶したのは、集中力と足腰がなかったということだ。その二つが十分に備わっていなければ、滝修行はクリアできないということだ。  ケイジは続けた。 「この基礎訓練では、戦いの基礎である集中力と足腰を鍛えることに特化している。滝修行も丸太担ぎも岩押しも、その二つが揃っていればクリアできるはずなのだ。もし今より強くなりたければ、集中力と足腰を重点的に鍛えてみるとよい」 「はい……ありがとうございます」  アクセルは深く頭を下げて礼を言った。  ――集中力と足腰か……。  これも一朝一夕に鍛えられるものではない。毎日欠かさず鍛錬して、少しずつ強化していくしかないのだろう。  とりあえず目標は、この滝に三〇分間打たれることだ。頑張らなくては。

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