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第808話
うっすらと身の危険を感じ、アクセルは慌てて言った。
「い、いや、大丈夫だ! 突き飛ばしちゃって本当にすいませんでした!」
早口に謝罪し、ダッシュで家まで逃げ帰る。
ああいう時の兄は危険だ。まだ昼間なのに、茂みに連れ込んでやらかさないとも限らない。兄の事は好きだけど、さすがにそれは遠慮願いたかった。
家に帰り、庭に回り込み、留守番させたままのピピに声をかける。
「ピピ、ただいま。いきなり出掛けちゃってごめんな」
「ぴー!」
「……どわっ!」
こちらに走ってきたかと思いきや、勢いのまま突進されてアクセルは軽くふっ飛ばされた。どうやら予告なしで勝手に出て行ったことを怒っているみたいだった。
空中で体勢を立て直し、受け身をとって地面に転がり、すぐさま立ち上がる。
「ごめんって。強い人と修行できるチャンスだったんだよ。今度は一言断ってから出掛けるから。な?」
「ぴ……」
「お詫びに美味しい野菜スープ作ってやるよ。ニンジンもブロッコリーもたっぷりのやつだ。ピピ、あれ好きだろ?」
そう言いながら頭を撫でてやっても、ピピはぷいっと顔を反らして不機嫌そうである。反応も思わしくない。
――う……そんなに怒らせることしちゃったかな……。
人にガミガミ怒られるより動物に臍を曲げられる方が、なんとなくバツが悪い……。
「アクセル、そればっか」
「えっ?」
「アクセル、いつもしゅぎょうばっか。ピピ、おいてけぼり」
「あっ……ご、ごめん……。そうだよな、いつも置いてけぼりじゃ寂しいよな……」
鋭く指摘され、さすがにグサッときた。そしてちょっと凹んだ。
言われてみれば、自分はいつも「強くなること」しか考えていなかった。早く強くなって兄と死合いを行いたい一心で、がむしゃらに鍛錬を続けてきた。周りが見えなくなることも多々あった。
でもそれは、周囲の人達にとっては迷惑でしかなかったのかもしれない。
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