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第810話

「あ、そういう意地悪言う? やだなー、お兄ちゃんは悲しいです」 「い、いや、そんなつもりは……。ただ、兄上と湯浴みするとめちゃくちゃ時間がかかりそうで……」  要するに、湯浴み中に手を出されてそれどころじゃなくなるのを懸念しているのだ。  兄に触られるとすぐに反応してしまう自分も悪いのだけど、それがわかっているから、こんなところでやらかすわけにはいかなかった。家の敷地範囲内とはいえ、ここは外だしピピもいる。  アクセルはあえてきっぱり言った。 「とにかく、兄上は家で待っててくれ。なるべく早く済ますから」 「しょうがないなぁ、じゃあボーッとしながら待ってるよ。……あ、ちなみにユーベルの剣の舞は明日披露する予定だってよ。歌劇団のみんなとパワーアップした舞を披露するからお楽しみに、だってさ」 「そうなのか。わかった、明日の夜だな」 「うん。それと『ちゃんと武器と防具は装備して参加してくださいね』とも言ってたな。丸腰だとまず間違いなく死ぬからって」 「そ、そうか……」  一体どれだけ危険な舞なんだろう。楽しむだけでなく緊張感を持って参加しなければ。 「じゃあごゆっくり」  兄が家に戻っていったところで、アクセルは早速腕まくりをした。そしてピピの全身に湯をかけ、毛並みの奥まで水洗いした。  すると、茶色っぽく汚れた水が次から次へと地面に染み込んでいった。  ――うわぁ……こんなに汚れてるものなのか……。  綺麗に見えても、やはり汚れは溜まっていたらしい。外にいるから余計に汚れやすいのだろう。これからはもっとマメに洗ってあげないと……。 「……ごめんな、ピピ。俺、飼い主失格だわ。もっと周りに気を配らないといけなかった。自分のことばかりじゃダメだな」 「ぴー」 「ありがとうな。ピピのおかげで大事なことに気付けたよ。俺がまた自分のことばかり考えてたら、遠慮なくぶっ飛ばしてくれ」 「ぴ!」

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