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第817話
兄が上機嫌に言う。
「それに、ユーベルの舞もパワーアップしてるみたいだからね。自分の劇団員を引き連れての参加だから、血みどろの大惨事間違いなしだ。楽しみだなぁ」
「そ、そうだな……」
アクセルとしては、自分が果たして宴後まで生き残れるかが少々心配である。
「兄上……もし俺が宴で死んじゃったら、ちゃんと間違えずに棺に入れてくれよ?」
「ええ? お前、今からそんな弱気でどうするの。強くなりたいんじゃなかったの?」
「もちろんなりたいけど、一朝一夕になれるものじゃないだろ。毎日鍛錬してたって、兄上の実力には遠く及ばないし」
「お前、ちょっと自分を過小評価しすぎじゃない? お前は今のままでも十分強いじゃないか」
「滝修行で気絶してたヤツが強いか?」
「初めての人は大抵気絶するんだよ。だから気にしなくていいんだ」
と、ビシッと言い切る兄。それでもまだ納得できないでいると、今度は額を思いっきり指で弾かれた。さすがに痛かった。
「お前の一番弱いところは、一人で勝手にネガティブなこと考えて落ち込んじゃうところだね。誰もそんなこと言ってないのに、何で落ち込むんだか。私からするとさっぱり意味がわからないよ」
「……身近にいる人が優秀すぎると、相対的に自分がダメなように見えてくるんだよ」
「はいはい、人のせいにしないようにね。とにかく、明日の宴に出席すれば自分がどれだけ成長したかわかるはずだから。余計なことは考えないようにしなさい」
「…………」
「お返事は?」
「……はい、兄上」
仕方なくアクセルは小さく返事をして、鍋の火を消した。そして熱々のシチューを皿に盛り、残った分はピピの夕食として庭に持って行った。
その後は他愛のない会話をし、食事を終えて早めにベッドに入った。また組み敷かれたらどうしよう……と内心そわそわしていたが、今夜は特に手を出されることもなく朝までぐっすり眠ることができた。
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