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第821話
「ルーティンを取り入れることにしたんだ」
「……ルーティン? 毎日の日課ってことか?」
「んー……日課というか、反復行動? 特に戦う前にルーティンをやってるよ」
「戦う前……。そうするとどうなるんだ? 力が一気に湧いてくるのか?」
「うん、まあそうかもー。いつもの行動をやっておくと、いつも以上の実力が出せるっていうかー。こう……グワ~ッて気分になってくるんだよね」
「う、うん……?」
説明が抽象的すぎてよくわからない……。
「ええと……つまり、具体的にはどういうことをやってるんだ?」
「んーとね、まずちょっと準備体操して身体を温めてー」
「準備体操ね……」
「それから、好物のお菓子のことを考える」
「……は? お菓子?」
……ますます意味がわからないのだが。
「これは僕の好物の話だから、思い浮かべるのは何でもいいんだけどね。アクセルなんかは、大好きなお兄ちゃんのこと考えるといいんじゃないかなー」
「……そうか。それで、その次は?」
「え? それだけだよ」
「はっ? お菓子のこと考えるだけ? 嘘だろ?」
「本当だよ。それで全身の力が一気にグワ~ッてなるんだ。これをやればアクセルももっと強くなれるんじゃないかなー」
「…………」
聞いておいて申し訳ないのだが、全く参考にならない……。
――もっと教え上手な人に聞いてみよう……。
ミューのルーティンの秘密はさっぱりわからなかったが、ランキング一位にまで上り詰めたからには、それなりの効果があるはずだ。多分他の上位ランカーも似たようなことをやっているに違いない。
自宅に戻ったら、兄にルーティンのことを聞いてみよう。
「あ、そろそろ三〇分経つかな?」
「えっ? もうそんな時間か?」
ミューが滝の下から出て行ったので、アクセルも一緒に外に出た。三〇分間重い水に打たれ続けていたせいか、肩や首が少し赤くなっていた。
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