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第826話
「……そうか。そんなに強いなら、いつかミューの死合いも見てみたいものだな」
「ミューの死合いは貴重だからね。座席も争奪戦になるけど、チャンスがあったら確保しといてあげるよ」
「本当か? ありがとう、兄上」
「さて、お昼ご飯にしようか。夕方からは宴があるからね。しっかり準備して行こう」
その後は兄と簡単な昼食をとって、念入りに武器の整備をした。
小太刀を手入れしている最中、唐突に兄にこんなことを言われる。
「お前、今日はこれを着ていきなさい」
「? なんだこれ……って、うおっ!」
ポイッと渡されたベストを受け取った途端、ずっしりした重みを両腕に感じた。どうやら細い鎖で編まれた防刃チョッキのようだった。
「いや、ちょっと待て。こんなの着てったら逆に動きが鈍くなるじゃないか。一瞬で斬られそうなんだが」
「それを斬られないように頑張るんだよ。お前、足腰強くなったんでしょ? だったらその重さにも負けないはずさ。それ着てどこまで身軽に動けるか、試してごらん」
「いや、でもさすがにこれは……」
これ一枚だけで、普通に十キロくらいはありそうなのだが。
――胴部への斬撃はある程度防げるだろうけど……。
それ以外の部分は防御力ゼロだ。どんなに甘く見積もっても、重りにしかならないと思う。
足腰の強さは確かめたいが、なにも今日実践しなくたって……。
迷っていたら、兄に軽く額を引っ叩かれた。
「つべこべ言わないの。実践するのが一番手っ取り早いんだから。死んでも復活できるし、心配いらないでしょ」
「……そういう問題か?」
「そういう問題だよ。お前、強くなって私と死合いしたいんじゃないの?」
「そりゃあしたいよ」
「だったら、今日はそれ着ていきなさい。いいね?」
「…………」
「お返事は?」
「……はい、兄上」
結局反論できず、仕方なくアクセルは防刃チョッキを身につけた。身につけた瞬間、ズシーンと上半身が重くなって、動きにくさも倍増した。
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