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第832話※

 ――はあ……やっぱりこの人はすごいな……。  助けてもらえたのは嬉しいけど、ちょっと悔しい気もする。今回は自分一人で頑張ろうと思ったのに、結局また助けられてしまった。しかも圧倒的な実力差まで見せつけられている。  こんなに鍛錬してるのに、いつになったらこの人に追いつけるんだろう。果たして自分は本当に成長しているんだろうか。ちっとも差が縮まった気がしないのだが。 「お前、まだ踊れるかい?」 「えっ……? あ、ああ……何とか……」  ズタボロではあるけど、動けないほどではない。防刃チョッキを切り刻まれたので身体は軽いくらいだ。  すると兄はにこりと笑って、こちらに手を差し伸べてきた。 「じゃ、一緒に踊ろう。きっと忘れられない夜になるよ」 「……ああ、そうだな」  アクセルは兄の手を取って顔を上げた。裂けた防刃チョッキを脱ぎ捨て、改めて二振りの小太刀を構える。 「しっかりついておいでね」  そう言うやいなや、兄が軽やかにユーベルの間合いに踏み込んだ。距離を詰めながら素早く抜刀し、襲い来る剣をいなしつつ、直接ユーベルに切り込んでいく。 「おっと」  当たり前のように、ユーベルが兄の太刀を防いだ。火花を散らして打ち合っている後ろから、間髪入れずアクセルもユーベルに切りかかる。 「……!」  小太刀がユーベルの右腕に入った。浅かったが確実な手応えを感じた。衣装が破れ、血が吹き出て、頬に返り血が飛んでくる。 「おおっ、なんと華麗な連携プレー! ラブラブ兄弟のなせる技ですね!」  ユーベルが嬉々として剣を振るってきた。ようやく楽しく踊れる相手が現れたと、心から喜んでいるみたいだった。 「ではわたくしも本気で参りましょう! あなた方の本気も見せてください! フオオォォ!」  空気が一気に重くなった。  痺れるような殺気と闘気、その中にも貴族らしい優雅さを秘めており、迫力からして今までとはまるで違う。  ――これがユーベル様の狂戦士モードか……!

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