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第835話※

 アクセルは咄嗟に全身の筋肉に力を込めつつ、小太刀を振り回した。捌き切れなかった斬撃が身体に当たり、右ふくらはぎから下が吹き飛び、左腕も二の腕から切断される。  腹部にも斬撃を受けたが、思ったほど深くは切られなかった。筋肉に力を込めていなければ、上半身と下半身が分かれていただろう。 「くっ……!」  だが、アクセルが動けるのはここまでだった。当たり前のように右足で前に踏み出そうとして、がくんとバランスが崩れてその場に倒れる。それで今更ながら右足を斬られていたことを思い出した。  両腕をついて急いで起き上がろうとしたものの、ここでまた左腕がなくなっていることに気付く。例え狂戦士モードで痛みを感じなくても、片腕片足だけでは戦えない。 「う……!」  自分が地面に這いつくばっている間にも、剣の舞は続いている。背中を掠める空気の鋭さが、舞の激しさを物語っている。  ――ちくしょう……こんなところで……!  まだ舞は終わってない。もっと戦いたい。なんで俺には手足がないんだ。せっかく狂戦士モードを思い出したのに、こんなところで動けなくなるなんて……。  ユーベルが大きく剣を振るった。キィンと優雅な金属音が響いて、三人がそれぞれ間合いをとった。  腕がなくなり、全身血まみれになっている姿で、ユーベルが華麗に礼をした。 「では、この辺りにしておきましょうか」 「そうだね……。引き際も肝心だ」 「いやー、久しぶりに楽しかったぜ。その分、修復は大変そうだけどな」  兄とジークも武器を下げ、にこやかに礼をする。  ――え、ここで終わりにするのか?  せっかく盛り上がってきたところなのに、それでいいのか。確かに全身ズタボロだけど、あの三人ならまだ戦えそうな気もするが……。 「あれ? うちの弟はどこ行ったかな?」  武器を納めた兄が、きょろきょろと周囲を見回す。  アクセルは狂戦士モードを解かないよう気をつけながら、生えている方の手を挙げた。

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