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第837話
「……はい、兄上」
短く返事をしたら、兄は満足げに微笑んでくれた。担がれているので顔は見えなかったが、確かに笑っていた。
気を紛らわせるために、アクセルは別の話を振った。
「それにしても、ユーベル様ってあんなに強かったのか? ランキング四位とは思えないんだが」
「うん? それはお兄ちゃんより強いって意味かな?」
「いや、断じてそんなことは! ただ、兄上とジーク様と……あと俺を三人同時に相手にしても、対等に渡り合っているように見えたから……。確かにお供の劇団員は五人いたけど、それを除いても強すぎた気がして」
自分はおまけみたいなものだが、兄とジークは別格だ。この二人を同時に相手してまともに戦えるのなんて、ミューくらいだろうと思っていた。ランキング四位を甘く見ていたわけではないが、予想以上の強さに舌を巻いてしまったのだ。
すると兄は朗らかに笑い、こんなことを言った。
「前にも言ったかもしれないけど、二位から七位までのランクは実力的にほとんど差はないんだ。だから私とユーベルの実力もほぼ同じくらいなんだよ」
「ほぼ同じくらいだったら、二対一になった時に押し負けるんじゃないか?」
「死合いみたいに広い会場で行っていたらね。あの剣の舞は、室内での乱戦時こそ一番強さを発揮する。もし宴の会場が天井ぶち抜きで、もっと果てしなく広かったら、あそこまで悲惨な状況にはならなかったはずさ。いくらでも逃げられるからね」
「確かに……」
要するに、ユーベルが三人同時に相手できたのは、宴会場の乱戦だったからというわけだ。他の場面だったらああはならなかった。
兄は続けた。
「室内なら室内に、場外なら場外にふさわしい戦い方があるんだよ。もちろん昼間と夜間では戦い方も異なるし、足場の良し悪しによって立ち回りも変えていかなければならない。戦うというのは、本当に奥が深いよね」
「うん……」
「お前も、余裕があったら場所や時間のことを考えてみるといいよ。そしたらもっと強くなれるはずさ」
「……わかった。勉強になったよ」
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