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第839話
兄は朗らかに笑いながら、頭を反らして天を見上げた。頭上では無数の星が輝いていた。
「ヴァルハラの空は綺麗だね」
「そうだな。地上でこんなにたくさんの星を見たことはないよ」
「考えてみると不思議だよね。生前は、死んだら星になるって言われてたけど、私たちは一度死んでヴァルハラに招かれてるわけでしょ? あの星はヴァルハラに招かれなかった人達の集まりなのかな」
「……そんなの、考えたこともないよ。星は星だとしか思ってなかった」
「おや、そうかい? 私はたまに考えるなぁ……人は死んだらどこに行くんだろうって」
へえ……と思って、アクセルは兄を見た。いつものんびりしている兄が、そんな哲学的なことを考えているなんて意外だった。
「ヴァルハラに来られなかった人たちは、みんなああやって星になってるのかなぁ……。それとも死者の国に送られるのかなぁ……。あるいは誰かに生まれ変わって、また地上で生活してるのかなぁ……」
「どうなんだろうな。考えたところで全くわからないが」
「そうなんだよね。だから私も途中で考えるのをやめて、『今が楽しいんだからまあいいか』ってなっちゃう」
「……今までの思考が台無しだな。兄上らしいといえば兄上らしいが」
「でも、お前がヴァルハラに来るまでは結構真面目に考えてたんだよ? もし弟がヴァルハラに招かれなかったらどうしよう、一体どこに送られるんだろう……って」
言われて、少しハッとした。
アクセルは「戦場で死ねばヴァルハラに行ける」と信じきっていたけれど、そうじゃなかった可能性もあるのか。オーディンの眷属 としての実力が足りなければ、ただ死んで終わりだったかもしれないのか。
星になるのか、死者の国に送られるのか、誰かに生まれ変わるのか、それすらもわからないまま、兄と死に別れていたかもしれないのか……。
視線を落としていたら、兄はにこりと微笑んだ。
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