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第841話
――俺の怪我、あとどれくらいで治るんだろう……。
腕は指先まで復活してきているが、脚の感覚はまだ片方だけだ。完全完治まではもう少し時間がかかりそうだ。
アクセルは言った。
「兄上は先に帰っててくれ。俺は治ってから帰る」
「そうかい? じゃあお兄ちゃん、ベッド整えて待ってていい?」
「……ベッドはどちらでもいいが、風呂を沸かしておいてくれると助かる」
「わかったよ。じゃあお風呂沸かして、ベッド整えて待ってるね」
そう言って、兄はスーッと離れていった。やたらと上機嫌で怖いくらいだった。
――帰ったら、また朝まで寝られないパターンかな……。
明日はピピを連れて山に行く予定なのだが、大丈夫だろうか。徹夜になったら中止になりそうなんだけど……。
「やれやれ、ホントにお前さんたちはラブラブだな」
ジークが呆れながらこちらを眺めて来る。
「本当にお互いしか目に入ってないって感じがするぜ」
「そ、そんなにあからさまですかね?」
「ええ、あからさまですね。というか、実の兄弟でそこまでラブラブというのがわたくしには理解できない感覚です」
ばっさりとユーベルが言ってのけたので、アクセルは彼の生い立ちを思い出した。確か彼は貴族出身だ。どの国のどの時代の貴族なのかは知らないが、独特の価値観の中で生きて来たに違いない。
「ユーベル様は、兄弟仲があまり良くなかったんでしたっけ」
「そうですね。貴族の世界は、実の兄弟であっても追い落とすのが当たり前ですから。油断したら一気に没落してしまうので、気を許せる兄弟なんていませんでしたね」
「そうなんですか……」
それは何とも寂しい話である。せっかく血の繋がった兄弟なのだから、仲良くできるものならしたいだろう。
ユーベルが首を傾け、ジークに話を振る。
「そう言えばあなたも兄弟たくさんいましたよね? 確か十三人でしたっけ?」
「えっ!? ジーク様、十三人も兄弟がいたんですか?」
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